まるでよくできたモンスター映画だった!OSO18は何を喰い、誰に喰われたのか?『NHKスペシャル OSO18 ”怪物ヒグマ”最期の謎』

■北海道標茶近辺で4年間に実に65頭の牛を襲撃、31頭を殺して恐れられたコードネーム「OSO18」というヒグマがあっけなく射殺され、それと知らぬ間にジビエ料理と化して全国で人間に食われていたという業の深い怪事件。NHKはその顛末をバッチリ映像に捉えてた、という驚きのドキュメンタリー。

■牛を次々に狙い、人間に行動の痕跡を補足されない用心深さから、よほど狡猾な怪物的なヒグマかと思いきや、NHK取材班の調査の結果、実はもっと強いオスたちとの縄張り争いに負けた弱いオスではないかと推察される。近年、草食傾向が強いヒグマのなかで、エゾジカの死肉を食らって肉食の味を覚え、あまつさえ肉しか食わない特異な個体に変化したのではないか。そのことをOSO18の遺骨の分析から解明するあたりが、一番の見所で、圧巻。

■そもそも、OSO18は駆除された際に普通のヒグマと思われ、すぐさま解体されている。でも、その解体残渣が駆除されたエゾジカなどのそれと一緒に業者のヤードに野積みにされていることがわかる。このなんだか得体のしれないものが混在する強烈な生ゴミの中に、手がかりは消えた。と思われた。でも凄いのはその後で、誰も手をつかなかった野生動物の解体残渣の山をディレクターみずからが約4時間かけて探索し、OSO18の腰椎あたりの巨大な骨格を発見する!

■その骨片の分析結果から、OSO18の特異な食性が明らかになるのだが、OSO18はほぼ肉しか食べておらず、栄養バランスを崩して衰弱したのではないかと示唆される。死体の手足がパンパンに膨張していたのも、何らかの病気を示唆する。そして、北海道ではエゾジカの保護の結果増えすぎて、自然死した遺骸もそのまま原野に放置されているという。その死肉を食らうヒグマはOSO18だけではない証拠も記録されている。。。

■OSO18は怪物だったが、強い個体だから怪物化したのではなく、その逆だった。怪物化の道は、いずれ特異な個体の孤独な死に帰着する。それは、そもままモンスター映画や怪獣映画のモチーフそのものじゃないか。OSO18事件の実録映画は、秀逸なモンスター映画になるはずだ。ぜひ、観たい。

補遺:ヒグマはもともと肉食傾向だった

■ちなみに、ヒグマの食性はわりと時代によって変化するようで、明治期以前は肉食傾向が強かったらしい。鮭を食うのは有名だけど、狼が狩った鹿も横取りして食ったらしい。まあ、そうだよね。

■ところが、明治期以降に草食傾向に変化し、上記の番組でもヒグマは通常、樹の実や山菜を食べると地元民に語られている。鹿を狩るもの(狼)がいなくなって、おこぼれに預かれなくなったらしい。でも最近は、エゾジカが増えすぎて殺処分が増え、その遺骸がヒグマの餌になっているという。

■だからヒグマが肉食化するのは、ある意味先祖返りといえる。でも、おそらく肉と植物を、ある程度のバランスで摂取しないと弱体化するのかもしれない。雑食の生き物にとって、偏食はよくないという教訓ですね!?

■当時京大院生だった松林順先生は、以下の研究の担当者で、今回のOSO18の安定同位体測定も担当して、本番組に登場してますね。
www.chikyu.ac.jp

蛇足:OSO18の肉は誰が食ったか?

■OSO18の肉はジビエ料理として人間の食用に供されたので、少なくとも病死肉ではなかったということだろうね。(検査はしてるだろうから)なかでも熊の手は中国人に珍重され、中華料理に使用されたらしい。明らかに不自然に腫れ上がっていたけど、ホントに大丈夫?

■たぶん、いまどこかの映画人が、OSO18(あるいは人食い熊)のジビエ料理を食った人間が牛の生肉を欲するようになり、やがては食人鬼に変貌するというB級ホラー映画の脚本を書いているに違いないね!

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