劔岳 点の記
2009 スコープサイズ 139分
TOHOシネマズ二条(SC7)
原作■新田次郎 脚本■木村大作、菊池淳夫、宮村敏正
撮影■木村大作 照明■川辺隆之
美術■福澤勝広、若松孝市 音楽監督■池辺晋一郎
監督■木村大作
■日本映画界が誇る名物キャラ木村大作が、自らのキャリアのすべてを賭けて打って出た初監督作品。これまでも木村大作のキャメラについてはかなり文句をつけてきたが、結局のところほとんどの作品を観ているということ。手掛けた映画そのものよりも、木村大作の人間性と言動のユニークさと痛快さのほうが魅力的という奇妙な現象を生むのも、この人ならではのことだ。一緒に仕事をするのは願い下げだが、離れてその言動を見ている分には、興味が尽きないという、そういうキャラクターだ。
■地味な(多分)原作を、現場主義のロケを中心として取り上げた執念の一作だが、劇的な構成としてはそれなりに考えてある。考えてはあるが、さすがに少々長い。登山家たちの友情や山に対する憧れと惧れを描いて、日本映画には珍しい本格的な登山映画ともいえる。山岳信仰の対象としての要素がドラマ的にはかなり大きな比重を占めるのだが、登山という行為の持つ精神性をもっとドラマ的に掘り下げられれば傑作になりえたかもしれない。その着眼は、日本映画でも非常に貴重なものだ。正直、脚本はベテランの脚本家に参加してもらったほうがよかったはずだ。
■星の数がちょっと辛目なのは、浅野忠信の演技の質が他の役者たちとタッチが違う違和感に拠る。ここは山田洋次なみに、演技指導を強めるべきだった。役所広司や香川照之がそれぞれに劇映画用の演技をしているのだから、浅野忠信もドキュメンタルな演技スタイルではおかしいだろう。脇役ではモロ師岡が儲け役で、この一作で観客に強烈な印象を残した。実際のロケでは、故障した蛍雪次郎の代役まで務めたらしい。
■で、肝心の冒険的撮影だが、いまどきは手持ちキャメラで、臨場感を煽るぐらぐらしたタッチが主流となるところを、あくまで正攻法の固定キャメラで描き切る反骨の姿勢に感動する。絵葉書的と言われることを恐れない、映像の喚起力に全てを託したバカ正直っぷりに、木村大作の心意気を見た。実際のところは、春木克己がDIを担当し、相当デジタル処理が施されているはずだ。特に雪嵐のシーンとか、降る雪のダブらしとか、雪崩に巻き込まれるフルショットとか、合成カットは少なくない。しかし、この撮影の本当の凄さを実感しうるのは、登山経験者であろう。ちなみに、映画館で観ないと値打ちが無い映画なので、是非ともスクリーンでどうぞ。
■製作は東映、フジテレビジョン、住友商事ほか、制作は東映東京撮影所