わが子はサイコパス?サイコスリラーの古典的傑作『悪い種子』

悪い種子(字幕版)

悪い種子(字幕版)

  • ナンシー・ケリー
Amazon

基本情報

The Bad Seed ★★★★
1956 ヴィスタサイズ 130分 @NHKBS

感想

■8歳の娘(パティ・マコーマック)の遠足で同級生の男子が海で溺死する。溺死の直前に娘と男の子が争う様子を目撃した者がいるというが、娘は知らないという。でも、男子に負けて貰えなかったことを悔しがっていた作文賞のメダルが、なぜか机の中から見つかる。。。まさかうちの娘が?一方、屋敷の使用人(ヘンリー・ジョーンズ)は娘の意地悪な性癖に気づいて、男の子を殺したに違いないと睨んでネチネチとカマをかける。。。

■ウィリアム・マーチが小説を書き、ブロードウェイで舞台化されて大ヒット、ほぼそのままの配役で映画化された問題作。監督はマービン・ルロイだけど、ほとんど舞台中継のような演出になっている。ホラー映画のような映像表現や照明効果は全くなしで、基本的には科白劇。なので、演技もやや演劇的で、演技の見せ場もところどころコテコテ。映画的に洗練はされていないけど、でも面白いものは面白いから問題なし。ストーリーラインだけなら、ロバート・ブロックでも書きそうな内容なんだけど、科白劇としての趣向をふんだんに盛り込んだあたりが本作の特徴だろう。ロバート・ブロックなら90分程度になるからね。死んだ男の子の母親(アイリーン・ヘッカート )が泥酔して怒鳴り込んでくる場面など、いかにも舞台的な趣向と演技だけど、さすがに演技的に見ごたえがある。

■8歳の娘への疑念がむくむくと湧き上がるサスペンスに対して、犯罪者の資質は遺伝か環境かという問答が中盤におかれ、良心を持たないサイコパスは実在することも語られる。そして、過去にヒロイン(ナンシー・ケリー)の父親が新聞記者として扱ったサイコパス殺人鬼の女の存在が気にかかってくる。その女には子どもがあったというが。。。このあたりはいかにもご都合主義にも見えるところだが、まあ、そのほうがお話が面白くなるからいいのだ。

■演出的には、ほんとに舞台劇の映画化という企画の性格を重視したように見え、普通のホラーとかサスペンスならここが重要ポイントというところを意外とさらっと流してしまうので、調子が狂うけど、ホントにこの頃のハリウッドの文芸映画って、舞台中継的な撮り方が多いのだ。それはマスターショット方式ゆえにそう見えてしまうという部分もあるし、そもそも劇映画って極端にいえば舞台中継でいいのかもしれないよ。(凄いこと言うなあ)

■それ以降のお話は、映画のエンディングで未見の人には明かさないように注意書きがついているので言いませんよ。数十年前の映画だけど、今観ても非常に面白いし、全く古くないからね。幼い子どもに殺意があるのか?日本映画では野村芳太郎の『影の車』という傑作があって、その回答を見事に提示してみせるけど、もちろん本作を下敷きにしているはず。何しろ『影の車』は「通俗の王様」橋本忍野村芳太郎コンビなので、しっかりとホラーというか怪談テイストを盛り込んでいるところが嬉しいね。しかも映像表現としてかなり秀逸。

■本来のラストは嫌な余韻の残るアン・ハッピーエンドだったが、当時のヘイズ・コードに従って因果応報、勧善懲悪な形で決着するのだけど、さすがに無理矢理で、『サンダ対ガイラ』並の唐突さだ。しかも、カーテンコール形式でサイコパスの少女がお仕置きされる(いまではこれも虐待です)場面を設けて、ショッキングな内容を中和しようとする。公開当時、それほど衝撃的だったからだけど、実際今観ても内容的に古くない。舞台中継t的な映像表現と科白劇で、ちゃんとショッキングなスリラーが出来上がることを証明している。ホントに脚本がちゃんとできていれば、普通の劇映画のようにフラットにナチュラルに撮るだけで異常心理もサスペンスも醸成できるんだね。


© 1998-2024 まり☆こうじ