お主も悪よのう…『エスター ファースト・キル』

基本情報

エスター ファースト・キル ★★★
2023 ヴィスタサイズ 99分 @イオンシネマ京都桂川

感想

■おなじみコレット=セラが名を売ったサスペンス映画のスマッシュヒット『エスター』の続編、じゃなくて前日譚がついに公開されました。ネタバレは慎重に避けたいと思いますが、確かにみんなの意表を突いてくれます。その意味ではこれもなかなかの快作。中盤でええええ?えー!てなりますよ。そこがクライマックス!

■でも監督がコレット=セラじゃないので、明らかに演出面で見劣りする。サスペンスの構築もそうだけど、ウィリアム・ブレント・ベルはコレット=セラに比べて芝居っ気がわかっていないと感じる。せっかくの大芝居の見せ場なのに、それでいいの?ってところがある。クライマックスも単なるスペクタクルになってしまって、エスターの晴れ舞台が十分に描かれない。派手なスペクタクルじゃなくて、前作の幻のラストシーンをサルベージして見せ場にすればよかったのに!

■撮影監督はカリム・ハッセンという人だけど、全体にソフトフォーカスで陰影のコントラストが弱めで、黒味も締まらないし、ずいぶん柔らかい画調なんだけど、その映像設計はちょっと違うと思うなあ。特にドラマの核となるのは由緒正しいオルブライト屋敷で、お話もオルブライト家の因果話なので、やっぱりゴシックな雰囲気がほしいところ。照明も淡彩で、こうした陰影で語るべき心理サスペンスの美味しいところが活かせていない。それは監督の嗜好、志向にもよるものだろうが、実に勿体ない。ホントに勿体ない。もっとゴシックに撮るべきだった。予告編でやっていた『仕掛人藤枝梅安2』の松竹京都の濃厚なフィルムタッチがさすがに見事だったので、完全に見劣りしてしまった。

■思い返すと、やっぱりオルブライト家の人間関係の描き方が雑で、というか薄くて、ほんの僅かな台詞や演技で地方の名家の抱える名家ゆえの悲劇性を際立たせることができるのに。それが成功すればもっと映画の格が上がったのに。やっぱり、コレット=セラに撮ってほしかったなあ。

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