肌に墨はうてても、心には誰も墨をうつことはできない!シリーズ第二弾の傑作『緋牡丹博徒 一宿一飯』

基本情報

緋牡丹博徒 一宿一飯 ★★★☆
1968 スコープサイズ 95分 @DVD
企画:俊藤浩滋日下部五朗 脚本:野上龍雄鈴木則文 撮影:古谷伸 照明:増田悦章 美術:石原昭 音楽:渡辺岳夫 監督:鈴木則文

感想

■緋牡丹博徒シリーズ第2弾。明治の中頃の上州富岡を舞台に、おなじみお竜さんが、弱小製糸業者から借用証書を巻き上げて悪徳製糸工場を仕切る悪いヤクザ(天津敏)をぶった斬る!

■『あゝ野麦峠』の世界にお竜さんが参上して悪い資本家≒経済やくざをぶち殺す痛快編。東映ならではの豪快な割り切り方。欲を言えば、女工哀史の部分を組み込めばいいのに、それは1シーンくらいで、むしろお竜さんと対抗する女壺振り(白木マリ)とその不能の旦那(西村晃)の因果な純愛の世界を強引にねじ込むあたりが、いかにも東映だし、野上龍雄ってことかな。兄貴の女を寝取ったばかりに、報復で不能にされた男と、イカサマばかりの自分の稼業だけど、このひとだけは本物なんだと添い遂げる女の因果な夫婦の純な愛情(泣かせる!)が脇筋としてさらりと描かれて、名台詞として有名な以下の台詞と響き合う構成。とことん大人の世界で、憎いね!

■天津敏に汚されたまちさん(城野ゆき)にお竜さんが語りかける名場面で、藤純子の名演技。

「見ておくんなっせ。女だてらに、こぎゃんもんば背負って生きとっとよ。
 じゃけん、あたしにゃ、まちさんの気持ちは、ようわかりますばい。
 女と生まれ、ひとを本当に好きになったとき、一番苦しむのは、この汚してしもうた肌ですけんね。
 消えんとよ、もう一生・・・。
 じゃけん、からだじゃなかつよ。ひとを好きになるのは、心。
 肌に墨はうてても、心にゃ誰も墨をうつことはできんとです」

しかもこの台詞はもともとなくて、藤純子が入れ墨をいやがったので、納得させるために追加したという経緯がある。野上龍雄砂川闘争のスローガン「土地に杭は打たれても、心に杭は打たれない」を思い出して、この台詞を書いたそう。こんな台詞書かれると、役者としてはゴネる余地がなくなるというもの。これぞ舞台裏の真剣勝負。

■文字どおりの弱きを助け強きを挫く古典的な任侠の人で”七人殺し”の流れ者を鶴田浩二が演じて、過不足がない。同時期の東京撮影所の映画は美術装置がベニア板で作ってあったりしてグダグダなのに、京都撮影所はまだかなりリッチ。もちろん大映映画のようにはいかないが、意外にも質感が高いので感心した。霧雨の夜に襲撃されるシーンなど、見事な情感で、見事な美術装置。東映京都舐めてました。ひどかったのは東京撮影所の方ですね。



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