清順なら『けんかえれじい』よりこっちを推す!『悪太郎』

基本情報

悪太郎 ★★★
1963 スコープサイズ(モノクロ) 95分 @アマプラ
企画:高木雅行 原作:今東光 脚本:笠原良三 撮影:峰重義 照明:安藤真之助 美術:木村威夫 音楽:奥村一 監督:鈴木清順

感想

■神戸での不行跡で豊岡へやられた東吾は地元の県立中学に編入するがそこでも悪太郎ぶりを発揮、旧弊な風紀委員たちと対立するが、医院の娘の恵美子と懇ろになることに成功する。。。という、原作者の実体験に基づいた小説の映画化。

■相当昔にテレビで観て、モノクロ撮影のうつくしさにやられたことを鮮烈に記憶しているのが本作『悪太郎』で、なにしろ監督が鈴木清順なので、リアリズムとかいう言葉は意味も知らないし気にもとめない演出姿勢であることには間違いないが、他の有名作に比べると普通に撮っているので実に良い。とはいえ、繋がらない変な編集は顕在で、随所に変な繋ぎが散見されるが、邪魔にならない。この手の題材だと後年の『けんかえれじい』の方が有名で、評価も高いけど、個人的にはこちらのほうが上出来だと思うし、今回もそう感じた。峰重義のキャメラはひょっとすると清順の意図とは異なるのかもしれいけど、非常に秀逸。

■脚本の笠原良三は喜劇が多いけど、土俗的な泥臭い風俗ものも得意としたベテラン。構成はシンプルだし、全体構成のバランスも良いので、確実に面白い映画になる。時々ハッとする傑作を書く侮れない人で、本作も非常にいい塩梅。でも最終的には青春の門第一部完てかんじで、完結しないのだね。明らかにシリーズ化を意識した感があるけど、二作目はなく、次作の『悪太郎伝 悪い星の下でも』は改めて悪太郎伝シリーズの第一作といわれているけど、これもシリーズ化ならずに終わった。

■でも、山内賢が非常に好演で、歌謡映画で軽薄な役も良いけど、こうした不良の役もよく似合う。和泉雅子はまだ硬いし、人間像としてもわりと定型的でいかにも古い女性像(大正初期の話なので当然だけど)なのであまり生きていない。でも、雨のなかではじめて口をきく場面はやっぱり上出来だし、京都の宿で親に黙ってこっそり情を通じてしまった翌日、一言台詞を言っては、互いにキスを交わす場面も、妙にエロくて真情が籠もっている。山内賢の友人役で杉山元が大きな役を演じて、これも好演だし、そういう意味では明らかな欠点がないウェルメイドな映画。そうそう奥村一ってあまり知らないけど、音楽もかなり上出来。


参考

さいきん、清順はあまり観ていないのだ。
maricozy.hatenablog.jp
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