豪華キャストの無駄遣いが逆に贅沢?『大名倒産』

基本情報

大名倒産 ★★★
2023 スコープサイズ 126分 @Tjoy京都
原作:浅田次郎 脚本:丑尾健太郎、稲葉一広 撮影:板倉陽子 照明:高屋齋 美術:原田哲男 音楽:大友良英 VFXプロデューサー:齋藤大輔 監督:前田哲

あらすじ

■実の父の和泉守から呼び戻されて丹生山藩主となった小四郎(神木隆之介)だが、藩には25万両の借金があり、隠居した父一狐斎(佐藤浩市)は大名倒産すれば責任を免れると示唆するが。。。

感想

■さいきんの松竹映画の看板路線である経済コメディ時代劇の最新作。東映映画『老後の資金がありません』のヒットが日本の映画業界のみなさんとても嬉しかったようで、わが社もあやかりたいと、監督には前田哲が起用されました。

■基本的に喜劇なのはいいけど、やたらと「えー」「ええー」とか今どきのテレビドラマのようなリアクションを映画で見せられるとさすがに腹が立つというもの。正直、テレビドラマでコメディの秀作、傑作はいくつもあるので、前田哲が真似したところで、正直お寒い状況。

■コメディなので明るい画調で撮りましたはいいけど、色調がさすがに変で、いかにもデジタルなルック(それも一昔前の感じ)なのも困りもの。美術は原田哲男だけど、美術予算は潤沢ではないらしく、ロケセットが多い。

■大借金を抱えた財政をいかに回復するか?誰が悪者なのか?大名倒産の計略はうまく進むのか?それはベストな解決なのか?といろんな要素について、あまり優れたアイディアは提示されないんだけど、終盤で無理やり綺麗に回収していくし、劇的な見せ場は押すので、ロジックは弱くて納得はしないけど悪い気はしないという娯楽映画。特に優れていはいないけど、それなりに楽しいのは確か。原作小説にはもっと具体的なディテールが盛られているはずだろう。また、音楽の大友良英が映像を置き去りにして、大げさに鳴らしに鳴らすので痛快なほど。

■ところがキャストは妙に豪華で、宮崎あおいが主人公の母役でしれっと出てるのにビックリ。杉咲花も本領発揮とまではいかないものの単純にキュートなので嬉しいし、松山ケンイチが単なる薄らバカの役というのも大いなる謎。しかもしっかり気持ち悪い。いまや国際スターの浅野忠信に安いコメディ演技をさせるのも倒錯的な贅沢感があるし、重要な役を演じる小手伸也って、初めて認識しました。いい役者ですね。ああ、勝村政信を忘れてはいけない。多少一本調子だけど、難役を十分な貫禄で演じた。

■最新の日本映画(劇映画)を映画館で観たのは久しぶりですね。『シン・仮面ライダー』以来か。日本映画の現況について知ることができました。ちなみに、前田哲は『水は海に向かって流れる』も上映中なので、今旬の売れっ子ですね。

ロケ地

■撮影の本拠地はもちろん京都太秦の松竹撮影所ですが、大きなセットは組んでいないので、ロケセットがメインとなります。

■一狐斎の居宅は詩仙堂で相当の分量がロケ撮影されていて、襖などは原田哲男のデザインした意匠性の高いものに入れ替えているようです。それにしても結構な大規模ロケなので驚きましたね。重要な芝居場が設定されているし、

■でもそれより驚愕なのは、老中らと会談が行われる江戸城の場面で、外観はおなじみの彦根城が使われますが、会談場所の大広間はセットではなく、どこかのお寺(不明)と思われますが、相当に広いです。通常、東映とかNHKならステージに組んでしまうのですが、松竹撮影所は大きなステージがないので、ロケ先を探したということろでしょうか。なにしろ年季が入っているので、柱の摩耗の仕方などリアルそのもの。畳もそのまま使用したようで、それなりにリアルにヘタっている。そこに人の歩く場所だけゴザ(もっとちゃんとした)のようなものが敷いてあるのも珍しい。これも相当な大規模ロケで、よく貸してくれたものだと感心しました。でもちょっと渋すぎるかもね。もっと意匠的なケレン味が欲しいところではある。

■最後に披露されるマツケンが作庭したという設定の見事(すぎる)な庭園は建仁寺霊源院でのロケですね。これは行ったことがないぞ。


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