魔笛 ★★★☆

魔笛 [DVD]

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  • ジョセフ・カイザー
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THE MAGIC FLUTE
2007 スコープサイズ 139分
京都シネマ(SC3)


 第一次世界大戦のさなか、死線を彷徨う兵士タミーノは夜の女王の3人の侍女に救われる。タミーノの男ぶりを見込んだ侍女たちは邪悪なザラストロに奪われた夜の女王の娘パミーナの救出を依頼する。女王から魔法の笛を贈られたタミーノは、小鳥を愛する小心者の兵士パパゲーノと共に、パミーナの救出へと旅立つが・・・

 ケネス・ブラナーモーツァルトの有名オペラを、物語の舞台を第一次世界大戦時に置き換え、しかもファンタジックな映像表現を駆使して、タミーノとパパゲーノの冒険譚として再構築した力技の一作。

 ケレン味のある派手な映像表現が身上のケネス・ブラナーのことだから、それなりに期待して観にいったのだが、予想以上にファンタジー色が強く、ある意味ではケネス・ブラナー版のハリー・ポッターと言えるのかもしれない。ほとんどの場面がステージ撮影されており、戦場シーンさえ、ほとんどロケには行っていないのではないか。そのかわり、VFXを多用して人工的な物語世界を美術的に構成しており、特に冒頭の序曲にのせて、1カットで戦場の空間を縦横無尽にカメラが飛びまわる場面とか、中盤の夜の女王が正体を表して娘に迫る「復讐の炎は地獄のように我が心に燃え」の場面では、痛快なコスプレアクションを見せてくれる。この2場面だけでもう1800円の値打ちは十分にある。

 物語の集約の仕方は、もともとのオペラの拘束があるので、映画的に納得のできる形には必ずしもなっていないが、日本人には敷居の高いオペラを、スーパー歌舞伎風にアレンジして(しかも台詞は英語)見せてくれるのは、それだけでも有り難い気がする。荒涼とした戦場が草原へ変貌してゆくラストのVFX場面などは川北版「モスラ」のラストにそっくりなので、誰しも考えることは一緒だと微笑ましくなる。物語のテーマも、地には平和をの願いを込めた正統派のファンタジーなのである。

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