人斬り五郎は、純情ヤクザ!青春純情やくざロマンの第二作『大幹部 無頼』

基本情報

大幹部 無頼 ★★★☆
1968 スコープサイズ 97分 @アマプラ
企画:岩井金男 原作:藤田五郎 脚本:池上金男、久保田圭司 撮影:高村倉太郎 照明:熊谷秀夫 美術:川原資三、木村威夫 音楽:伊部晴美 監督:小澤啓一

感想

■渡哲也の出世作で看板シリーズ、無頼シリーズの第二作。第一作が『「無頼」より大幹部』で、二作目が『大幹部 無頼』というタイトルで、わかりにくいことこの上ない。

■ポスターでも実話と銘打って、映画でも「昭和三十年頃」と改めてタイトルが出るのだが、時代考証は深く考えない方がいいだろう。そもそも、このシリーズは東映の実録、実話路線とは大きく異なり、やくざ社会のダイナミックな確執や矛盾を描く疑似社会派ものではなく、任侠映画と現代ヤクザ映画の折衷的なイメージを狙っている。その嗜好は、むしろ時代劇のやくざモノ、股旅モノなどに近いと感じる。仮に「やくざロマン映画」とでも呼ぼうか。

■第一作の回想から始まる完全な続編で、弘前に雪子(松原智恵子)、夢子(松尾嘉代)たちを訪ね、カタギとして暮らす五郎は、カネに困って木内組の用心棒となって横浜に戻るが、敵対する和泉組には昔の兄貴分浅見(二谷英明)がいるし、和泉組を潰した木内組のど汚いやり口に愛想をつかすと。。。というお話で、岡崎二朗と太田雅子(梶芽衣子)のカップル、芦川いづみ田中邦衛カップル、二谷英明真屋順子の夫婦のエピソードが絡む。

■やくざ社会の泥沼に絶望し、何度も抜け出すことを試みながら、なんの因果か舞い戻ってしまう”人斬り五郎”の宿業を描くのだが、相方が山口からの家出娘なのに、謎の生真面目・純情・生娘テイストを撒き散らす松原智恵子なので、このカップルのやり取りが、まるで高校生カップルのようで、このシリーズの基調を日活青春映画路線のように見せている。ここが東映では無理なユニークな味であることを、今回はじめて認識した。第一作では典型的な添え物という印象しかなかった雪子のキャラクターだが、松原智恵子のファンタジー領域に属する非現実的な純粋さが、やくざ社会のドぎたなさと対照的に描かれる。この対照関係によって、このシリーズはやくざロマンになっているのだ。

■これが監督デビューの小澤啓一は冒頭の青森ロケからノリノリで、高村倉太郎のキャメラワークも充実して、非常に丁寧に撮られていて見応えがある。そもそも同時期の東映映画などに比べると、照明も凝っているし、とにかくカラーの発色が綺麗だ。色に濁りがない。使用フィルムの特性と、東洋現像所の現像液(?)の威力ということだろうか。おかげで、無機質でペラペラに見えがちな組事務所の美術セットも質感が東映などとは段違いにリアルに見えるから、日活の技術スタッフは優秀だ。

■いっぽうでヤクザたちによって売笑婦におとされる踊り子役が芦川いづみで、腐れ縁の着流しヤクザが田中邦衛という配役にも驚く。さすがに芦川いづみは年相応に憂いを帯びていい演技を見せるが、同年の意欲作『孤島の太陽』を最後に引退してしまう。そんな時代ですね。

■そして、クライマックスは日本映画史上の伝説といっても過言でないほど人口に膾炙した、用水路と下水道を駆使した殺し合いの場面で、前作のクライマックスが青江三奈の歌唱とカットバックだったのを踏まえて、女学生のバレーボールの場面とカットバックされ、最終的にバレーボールのコートに半死半生で血みどろの渡哲也が倒れ込む。その青春の対比が、臭いほどのわかりやすい演出で描かれる。確かに名場面だ。

■本作を観ると、小澤啓一って、デビュー作なのにかなり臭い演出を照れずに駆使する人のようだ。というか、前作で舛田利雄が本シリーズを「大浪花節」と定義してしまったので、律儀に踏襲しているのかもしれない。
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