舟木一夫の純愛「傾向映画」最終作は、昭和元禄きょうだい心中!『残雪』

基本情報

残雪 ★★★
1968 スコープサイズ 94分 @APV
企画:笹井英男 脚本:智頭好夫、大工原正泰 撮影:萩原憲治 照明:河野愛三 美術:坂口武玄 音楽:池田正義 監督:西河克己

感想

■いきなり記事のタイトルでネタバレして恐縮ですが、日活の公式サイトですら完全ネタバレだし、封切りから50年以上も経っているで、大丈夫でしょう!むしろ、みんな大好き「心中映画」の異色作として、なかなか見どころがある映画なのです。

舟木一夫が主演した純愛三部作というものがあって、『絶唱』のヒットを受けて、『夕笛』が製作され、本作が三部作の最終作。すべて西河克己が監督ですね。しかも、『夕笛』と本作は智頭好夫の名義で、脚本まで書いているので、それなりに力が入っているということでしょう。

■『夕笛』は未見ですが、どうもこの純愛三部作は『絶唱』が完全に傾向映画であったことを踏襲してか、西河克己の趣味なのか、どうも傾向映画三部作として構想されていることが明らかになる。そして、そのことがかなり歪でユニークな純愛映画に結実している。

■昭和43年の卒業間近の大学4年生を描くのに学生運動の気配も見えないというのが不自然なのだが、その一方で、いつ日本も戦争に巻き込まれるかわかったもんじゃないとか、水爆が落ちてくるかもと、ベトナム戦争の影に怯える大学生たちの姿が、かなり唐突に、取ってつけたように描かれる。それは当時の大学生の学生生活をリアルに追わないせいで、そう感じてしまうのだが、一方でそれは舟木一夫松原智恵子の二人の関係が先の大戦東京大空襲に遡ることと照応している。

■この物語の中心テーマは昭和元禄の太平の世の中に、まだ確実に生きて疼いていた太平洋戦争の生々しい傷跡と、それは過去の話ではなく、明日彼らの頭上に水爆が落ちてくるかもしれないという不思議な焦燥感なのだ。

■ただ、そうしたテーマがきょうだい心中として回収されるのは腑に落ちないし、きょうだいが死ななければならないほどのリアルな追い詰めが無いので、どうしても唐突だしご都合主義に見えていしまうのが本作の弱点。正直なところ、こうした傾向映画を志向するなら、『ガラスの中の少女』も撮った若杉光夫に撮らせたほうがいいだろう。それにこうした映画こそ、二人が死んだ後の締めくくりのエピソードが欠かせないと思うのだ。この場合は、決して蛇足にはならないと思うぞ。

松原智恵子の育ての母を千石規子が演じているのも異色だし、二人の父親を演じるのが山形勲というのも日活では異色。普通なら民藝の重鎮が演じるところだが、しっかり好演。一応、日活では演技的な要の役は協力関係にある民藝から実力派が出るのがお決まりだが、西河克己はそれが嫌だったのかもしれない。民藝は基本的に社会主義リアリズムの演技なので好き嫌いがあるかも。あるいは企画の笹井英男の趣味か。なにしろ、舟木一夫の妹役が「怪奇大作戦」の小橋玲子ですよ。
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