ボーダーライン少女の危険な誘惑!『若い人』

基本情報

若い人 ★★☆
1962 スコープサイズ 90分 @DVD
原作:石坂洋次郎 脚本:三木克巳 撮影:萩原憲治 照明:藤林甲 美術:佐谷晃能 音楽:池田正義 監督:西河克己

感想

■おなじみ石坂洋次郎の原作による明朗学園青春映画。と思いきや、なかな一筋縄では行かない危険な映画。映画自体は、いつもの三木&西河コンビらしい軽妙な喜劇映画として描かれるのだが、なにしろ吉永小百合が演じる江波恵子という娘がなかなかの難物で。。。

■長崎の名門私立女子高を舞台に、私生児の恵子(小百合)が数学教師間崎(裕次郎)に思いを寄せていることを知った橋本先生(ルリ子)が問題視する中、修学旅行中に間崎と恵子が急接近、その後、恵子が妊娠したという噂が広まり。。。というお話なんだけど、問題は恵子という女子高生の描き方にある。あきらかに境界性パーソナリティ障害の娘として描かれているんだね。

■映画の構成としては、大人に興味と反発を抱き、男を性的に翻弄する小悪魔的な危うい少女として、恵子をコケティッシュに描こうとしていて、それは恵子の個人的な性格的な問題なのかと思いきや、クライマックスでその母(三浦充子)の自堕落過ぎる生き方や性格が延々と映し出され、ああ、この母親のだらしなさ、家庭の不在が、恵子のこうした性格的な偏りを生んだ原因なんだと主人公が納得するという話になっている。そのうえで、ラストに先生を橋本先生にあげると恵子に言わせて、ドラマは唐突に終わるのだが、映画としては明らかに尻切れトンボだ。正直、三木克巳井手俊郎)らしくない脚本だと思う。

■実際のところ、戦前に書かれた原作小説はこんなところで終わってはおらず、間崎と恵子は肉体関係を持ってしまうし、橋本先生は非合法活動の廉で警察に検挙されるし、間崎は図に乗った恵子にいいように翻弄されて、結局は橋本先生のところ行けば、と捨てられる。このように、原作小説は映画よりももっとストレートにボーダーラインの症例を描きこんでいるし、どう考えてもシリアスで怖いお話なのだ。

■この原作小説は戦前には豊田四郎によって、昭和27年にも市川崑によって映画化されていて、これはもっと原作小説に忠実な陰鬱な映画だったらしい。江波恵子を島崎雪子が演じているので、観てみたいのだが、それでも最後には恵子が自分の非を認識して改心して、間崎を橋本先生のもとに送り出すというお話になっていたようだ。本作もそのあたりは踏襲しているのだが、全く説得力がないのだなあ。

■そもそも、脚本家井手俊郎といえば、成瀬巳喜男『めし』とか森谷司郎の『放課後』とかで、年上の男を魅惑し翻弄する若い娘の姿を好んで描いてきた人で、本作もその系譜に属するだろう。ただ、本作の恵子は危険な年頃の少女のリリシズムを描く映画ではなく、一見そう見えた娘の背景に大人の自堕落が凝視され、恵子がそうなるのも仕方ないよね、生育環境が悪すぎるよね、という見せ方になっているのが不徹底で、明朗青春映画として仕立て直すという企画開発の意図はわかるもの、原作小説の翻案としてはいただけない。本来は喜劇ではなく、シリアスなメロドラマとして企画開発すべき素材だと思うがなあ。

■ただ、喜劇映画としては非常に秀逸で、間崎先生の下宿に恵子と橋本先生が訪ねてくる場面のオーソドックなコメディ演出は相変わらず見事だし(いきなり革靴をプレゼントに持ってくる母娘の怖さも!)、お話には絡まない完全にコメディリリーフとして登場する殿山泰司の件(エロい探偵小説を声に出して読んでいるオヤジ。)とか、よりによってハゲで笑わせる小沢昭一も最高に可笑しい。このあたりの冴え方は、間違いなく三木・西河コンビの名人芸なんだけどね。

■でも、間崎先生にいったん奴隷解放宣言を出した後、雨の突堤にひとり立つ恵子は、このあとボーダーライン少女らしく自殺騒ぎを起こすに決まっていると予想され、ちっとも終わった感が無いし、結局は間崎が橋本先生に愛想を尽かされ、生徒との淫行を咎められて懲戒処分を受け、一人寂しく学校を去る未来しか見えないのだ。。。
www.nikkatsu.com


参考

なんと12年前に市川崑版を観ていましたとさ!我ながらビックリ。完璧に忘れていた。。。
maricozy.hatenablog.jp
いわゆるひとつのこうした事件が実際に発生しており、学校の教員と生徒・学生、保護者の間では微妙に難しい関係が生じることがあります。学校側の管理体制は基本的にことなかれ主義なので、特異な人物と関わってしまった場合、その教師個人をスケープゴートにして詰腹を切らせたりしがちなので、要注意。人生、至るところに落とし穴が潜んでいる。 
maricozy.hatenablog.jp

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