最後が三丁目の夕日に見えては困る『1987、ある闘いの真実』

基本情報

1987 ★★★
2017 ヴィスタサイズ 129分 @DVD

感想

■1987年、学生運動家の警察による拷問死に端を発して韓国で激化した民主化抗争の、その発端部分を史実とフィクションをない交ぜにしながら描いた熱い映画。特に対共捜査所長を演じるキム・ユンソクの役作りが強烈で、その化けっぷりは圧巻。脱北者として反体制狩りにまい進する狂信的な存在感が映画を牽引する。序幕でそれに徹底的に反抗するソウル地検の検事部長も役得で、この対決の構図で全編ひっぱるのかと思いきや、検事部長は途中で退場してしまうのは史実だからだろうが、もったいない気がするなあ。ハ・ジョンウの好演も含めてね。

■後半はお馴染みユ・ヘジン演じる反体制派の看守とその姪っ子キム・テリのお話に移行し、刑務所内から拷問死の真相を世界に向けて報道するための情報戦が描かれる。そして、キム・テリのノンポリ女子大生は実在の学生運動家の青年と結びついてゆくが、その学生運動家は武装警官から催涙弾の水平射撃を受け。。。

■キム・テリの女子大生はフィクションらしいが、学生運動家の拷問死から、当然想像されるラストの大集会へと軍事独裁に対する反抗の熱が高まってゆく構成はオーソドックスなもので、悪くないよ。ノンポリの女子大生が軍事独裁のえげつなさに対して、はじめて自分自身の考えを持つに至る変化と成長を描くのはオーソドックスな作劇だけど、それならもっと早く登場させてもよかったのでは。前半と後半で主人公が交代する印象なんだな。監督は敢えてそうしてるんだろうけど。

■ただ史実に基づいて実録映画風に展開する前半のえげつなさと怖さとスリリングさに比べると後半の作劇はちょっと甘い気はするし、ラストの街を彷徨うキム・テリがデモに合流し、バスの屋根に上って同じ志の大群衆を目にするあたりの見せ方も、気持ちは非常によくわかるけど、VFXを使って実際に映像にすると、夕陽のハレーションのいかにもな入り方なども含めて作為が過ぎて、なんだか『三丁目の夕日』に見えてしまうのは困るのだ。

■メイキング映像を見ると、街頭デモのシーンは大幅にVFXが利用されているようで、大量のグリーンバックが見えますよ。建物や看板なども大幅にCGが使用されている。そのわりには、まったく気にならないので大したものです。ラストシーンなどはあまりにキレイな決め絵を作ろうとするから、逆にわざとらしく浮いてしまう結果になったのだ。

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