光州5・18 ★★★☆

MAY 18
2007 スコープサイズ 121分
DVD

■1980年の光州事件の真相を描いた真面目な社会派映画かと思いきや、事件に巻き込まれてゆく一般民衆たちの姿をきわめてB級タッチで描いた活劇映画の快作。

■何しろ、事件の政治的側面とか民主化運動云々といった事柄は一切脇に置いておいて、あるタクシー会社の従業員たちが事件に巻き込まれて、いやおうなく市民軍に身を投じてゆく経緯を追いかける。金大中にも、全羅道に対する差別意識にも触れられない。

■光州を制圧した空挺部隊の描き方も、隊長がほとんど狂信的な悪役といった表現で、気勢を上げる市民たちに水平射撃を浴びせる。自国民を白昼堂々虐殺する軍隊という恐るべき現実の前には言葉も無い。主人公たちがB級喜劇映画を観ていると、外では市街戦が始まっていたというシーンは秀逸な設定(まあそういう事実もあったのだろう)なのだが、演出は今一歩。

■そうした悲惨で極悪な事件を描くに際して、コメディリリーフを設定して、しかもウンコネタで引っ張る神経が不思議なのだが、まあ、昔の東映映画と思って観ていれば、違和感は感じなくなる。タクシー会社の社長がアン・ソンギで、後半は元空挺部隊の経験を生かして自民軍の指揮者となって県庁に立てこもるのだが、後半は活劇映画としてもボルテージが上がり、燃えに燃え、やがて哀しき祭りの終わりが訪れる。その意味では、かなり面白い映画なのだ。

■生き残った娘は私たちのことを忘れないでくださいと叫びながら誰もいない市街を巡ることになるのだが、実際のところ、何を忘れるなと訴えているのかは定かでない。映画には、意外と何も描かれていないからだ。

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