取り返しのつかない、たった二分間の沈黙『僕たちは希望という名の列車に乗った』

基本情報

Das schweigende Klassenzimmer ★★★☆
2018 スコープサイズ 111分 @DVD

感想

■まだ「ベルリンの壁」が存在しなかった1956年の東ドイツ、エリート高校の生徒たちは禁じられているアメリカのラジオを聞いて、ハンガリーの民衆蜂起で市民に多数の死傷者が出ていることを知り、翌日の授業で黙とうのために2分間の沈黙を捧げるが、学校は体制への反抗として問題視、首謀者の追求を始め、学生たちはサッカー選手の死に対する黙とうで政治的な意味はないと反論するが、遂には教育相が学校に乗り込んでくる…

■という実際に起こった事実をもとにした映画。どこまでが事実なのかわかりようがないが、非常に興味深い。学生たちの親の世代との関係も織り込んでんそう、特に父と息子の関係性のなかに、この時代の東ドイツの戦後社会の姿を凝集して描いている。ナチスと戦って死んだ英雄を父に持つ子供のエピソードが終盤に大きな意味を持ってくるのだが、かなり悲痛な真相で心が痛む。戦争の爪痕、東西体制に引き裂かれたドイツの悲劇を象徴しているだろう。

■一方、1953年の東ベルリン暴動に参加したためにエリート層から労働者階層に落とされた(?)父親を持ち、労働者階級出身のエリート候補生として、同様の出自を持つ校長からも特別な期待をかけられる少年の決断も見ごたえがあり、ラストのある行動(タイトルでネタバレ!)は悲痛であり、痛快でもある。たった二分間の黙とうという小さな反抗がクラスの大半の生徒の人生を大きく変えることになったという知られざる事件で、それだけでも知る価値があるというものだ。ラストは意外とあっさりしていて、もう少し押しが欲しい気もするが、脚本、監督のラース・クラウメという人はなかなかの巧手だ。

参考

こちらが原作らしい。映画を観るとクラスの生徒たちのその後の人生が知りたくなるが、どの程度書かれているのだろうか。

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