昭和42年、渥美清は既に寅さんだった!『父子草』

基本情報

父子草 ★★★
1967 スコープサイズ 85分
脚本:木下恵介 撮影:梁井潤 照明:下村一夫 美術:松山崇
音楽:木下忠司 監督:丸山誠治

感想

■どんな経緯でか興味のあるところだが、木下恵介東宝でオリジナル脚本を書いた人情劇の小品。物語の舞台は東京だが、制作は宝塚映画ですな。
■ガード下のおでん屋で知り合った苦学生が受験勉強に専念できるよう一肌脱ぐ「あしなが叔父さん」ならぬ土方の叔父さんを渥美清が演じて、ほとんど寅さんそのものというキャラクターを演じあげる。この叔父さん、実は「生きていた英霊」で、故郷の佐渡島に残してきた実の息子の面影を苦学生に重ねていたのだ。
■という謎解きの部分は実はあまり冴えず、むしろ中盤までのおでんやで散々悪態をつく渥美清の演技が最高なのだ。これを受け流しながら彼の人間味に共感してゆく理解者役が、散々ばあさんと呼ばれる淡路恵子で、これも実力発揮の好演。
■昭和42年のことなので、苦学生の役をなんと石立鉄男が演じて、星由里子とカップルである。なんだかくらくらするけど、若い頃の石立鉄男はなかなかの色男なのだ。
木下恵介は松竹で散々母親賛歌を歌い上げてきたのだが、本作は父と息子の関係になっているところがユニーク。しかも、疑似親子である。互いに田舎から都会に出てきて、ひとりぼっちの男同士が仮の父子のように振る舞う。木下恵介にとって、母子関係は抜き差しならぬ血の繋がりの話だったが、父子関係はむしろ仮の関係でも成り立ちうるという実験だったのかもしれない。そして、彼らにそうしむけるのは、先の太平洋戦争であり、当時社会問題化していた受験戦争なのだ。父と息子の間には、社会や国家といった制度や外在的な要因が割って入って、母子関係のように絶対不可侵な関係とはなりえないという信念や確信のようなものがあるのではないかな、木下恵介には。