十五才 学校Ⅳ ★★★★☆

十五才 学校Ⅳ
2000 ヴィスタサイズ 120分
DVD
原案■松本創 脚本■山田洋次朝間義隆平松恵美子
撮影■長沼六男 照明■吉角荘介
美術■出川三男 音楽■冨田勲
デジタルエフェクト■日本エフェクトセンター
監督■山田洋次


 十五才の不登校の少年(金井勇太)は、家出して屋久島の縄文杉を目指してヒッチハイクの旅に出る。その小冒険の途上で様々な人々とめぐり合い、ひとつの想いを育んでゆく・・・

 丹波哲郎追悼特集のつもりで借りたDVDだが、映画としての予想外の出来のよさに感動した傑作。名作と呼んで間違いない。本作で山田洋次は遂に木下惠介の域に達した。(他の「学校」シリーズは未見なのだが、このレベルに容易に達しているとは思えない。)

 少年が旅を通じて成長するという古典的なシンプルな物語だが、学校の外側から学校の意味を探るとともに、普通の少年の小さな冒険を通じて現代のありきたりな青春を描いた青春映画として、異様に清々しく、爽やかな映画に仕上がっている。製作当時69才の山田洋次の中に生き残っている少年の心が、力まず衒わず誠実に描き出されていて、観る者の心に棲む少年の自分を素直に揺さぶる。正攻法の映画作りの力強さに感動する。

 ヒッチハイクの途上で出会う麻実れいの家庭のエピソード描写が特に素晴らしいが、麻実れい自身の演技も圧巻である。もっと映画に出てほしい大器だ。ラストに満を辞して登場する丹波哲郎も、地のキャラクターではなく、役を演じる姿勢で、晩年の代表作としている。少年が父親と子供の関係について大事なことを学ぶ大切なシーンを、説得力をもって演じ切る。出番は少ないが、前田吟の存在感も見逃してはならない。山田洋次三船敏郎の老年時代のキャリアを「男はつらいよ 知床慕情」で飾らせたばかりか、本作では「用心棒」を引用して三船に対する未練を吐露するが、ここでも丹波哲郎の晩年のキャリアを盛り立てているのだ。次は「釣りバカ」シリーズの最終作のメガホンをとって、三國連太郎の晩節を飾らせるつもりではないか。

 老若男女、全国民必見と自信を持って推薦できる名作だが、自分の中学、高校時代にこんな映画を観ることができれば、人生も少しは変わっていたのではないかとしんみりしてしまう罪な映画でもある。

 ちなみに、「仮面ライダー響鬼」でヒーローと少年の出遭いを屋久島を舞台として描き出したのは、この映画の影響ではないか。屋久島と少年というとりあわせは、どう考えても、この映画を想起せずにはおかないだろう。

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