感想
■今井正の映画史に残るヒット作『また遭う日まで』で衝撃的な(?)カップルとなった岡田英次と久我美子が同じ年に共演した知る人ぞ知るリアル志向のやくざ映画の異色作。何しろ昭和25年のことなので、暴力団の暗躍と社会問題化は顕著だったらしく、山本薩夫などが独立プロで映画化していたりするのだが、本作は大映の辻久一がリアル志向の娯楽映画として生きのいい作品に仕上げた。小石栄一という監督はよく知らないのだが、本作の演出を見るかぎりかなり力量のある監督らしい。
■やくざの兄弟分を殺して入獄したが、娑婆に出れば仲間に消される男を主人公に、彼を守って反暴力団の社会問題として訴えようとする新聞記者と、主人公の兄貴分の妹で恋人との逃避行を描く。スタッフは後に日活に移籍して大活躍する姫田真佐久と木村威夫がメインで、ナイトシーンはちゃんと夜間ロケで描くし、ロケとセットの繋がりも自然で、リアル志向の撮影がさすがに高レベル。成沢昌成が主人公カップルの逃避行をねっとりと情感豊かに描くし、終幕の真犯人登場と、例によって憎々しい三島雅夫の親分の末路の捻りも効いているし、実に上出来な犯罪ドラマ。
■しかも兵隊崩れのやくざ者と、その兄貴分だから当然やくざ者の妹のカップルを、当時話題の岡田英次と久我美子に演じさせるというのが企画の妙。さすがに後の東映のように汚くならないし残酷な暴力描写もないのだが、それでも基本はリアル志向で、決してキレイキレイな映画ではない意欲作なので、異色の配役。宇野重吉の新聞記者はいいとして、警察署長が笠智衆で、岡田英次を柔道で散々投げ飛ばすというのも珍なる光景だけど、実際強そうに見えるから不思議だ。
■こんな映画があったとは、全く知らなかったよ。