遂に!水木洋子のオリジナルシナリオ『怒りの孤島』を読んだ

■いまや事実上幻の映画となった久松静児監督の日映映画(松竹配給)『怒りの孤島』のオリジナル・シナリオを、やっと読んだ。読んだのはずっと前だけど、記事に出してなかったので、今更だけどアップしておこう。

■以前に記事に書いたように、水木洋子のオリジナルシナリオに対して、実際の撮影現場では監督の久松静児が毎日せっせと大幅に書き換えていて(スクリプターの中尾壽美子談)、完成した映画では、水木洋子の書いた台詞はほとんど残っていない(本人談)とも言われている。
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■オリジナル脚本を読むと、舵子の少年たち(子役)に対して、脚本の台詞が多すぎるところがある(かなりの長台詞がある)ので、演技の力量とロケ撮影の都合にあわせて整理したのではないかとも思われる。ステージ撮影なら撮りきれても、現地ロケでは難しすぎる場面があったことは想像に難くない。さらに台風の影響もありロケ撮影で撮りきれなかった場面が出て、最終的に児童憲章などを引用して、編集でまとめた(水木洋子談)と言われている。もちろん、オリジナル脚本に児童憲章は出てこない。では、オリジナルシナリオでは、どんなお話と構成だったのか。

■まず、広島の保護園から7人の新しい舵子たちが愛島にやってくる。そのうち、悌三(手塚茂夫。のちのスリーファンキーズの手塚しげお!さすがに知らんけど)が主役といえる。島には先輩の舵子の鉄(東宝特撮でおなじみの、鈴木和夫)がいて、悌三と鉄は友だちになる。鉄の弟分の直二は島民により虐待死しており、一緒に悼んだ関係だ。直二の惨めな死に怒った舵子たちが島を脱走すると、本土では舵子に対する児童虐待や人身売買が社会問題化し、役所関係者やマスコミが島に殺到するが、貧しい島で生き抜くために昔からずっと続いてきた風習で、なんでいまさら一方的に批判されなければならないのか、何が悪いのか、自分だってもともとは舵子として島に来たのだと島民は開き直る。本土に戻った悌三だが、身よりもなく、やはり生活ができないので、追い返されるように愛島に戻るものの、舵子を置くと世間が煩いからと門前払いにされ、終いには盗みを疑われ、島民に岸壁に追い詰められて墜落死する。一方、慈善的な教師の家に引き取られた鉄は、家族の温かい気持ちにかえって里心を刺激され、死んだと聞かされる母を求めて、島を出るのだった。

■シナリオを読む限り、児童虐待の残酷さはそれほど際立たず、どぎつさは感じない。とはいえ、下痢が止まらないので生簀に閉じ込められて便槽の上に置かれたまま衰弱死する直二とか、折檻され縛られて雨の浜辺に放置された鉄とか、映像化するとえげつないだろうとは想像できる。

■ただ、過酷なお話だが、島には常識的な小学校教師がいて、その家族が普通の観客の気持ちを代弁する形になっているので、しっかりと不条理な制度に対する怒りは表明され、救いもあるし、カタルシスを発生させるようになっている。だから、陰惨な絶望的なお話ではない。

■直二が酷い死に方をし、悌三まで島民の群集心理に殺される。それでも、随所に人情をしっかりと描きこんでいて、ボリューム的にもその部分のほうが比重が大きいので、シナリオを読むかぎり、ちゃんとドラマになっているし、心を押し殺して島の過酷な生活に適応しているようにみえた鉄が、教師家族の情に触れて、自分の人間性を取り戻す(恢復してゆく)構成は、十分に感動的だし、通俗的な訴求力、普遍性もある。

■最終的に母恋い物語に回収するのは定番過ぎる気もするけど、日映創立第一弾なので、通俗を狙った安全路線だと思う。まあ、そもそもテーマ的にはずいぶん攻めたセンセーショナルな企画なので、そのバランスもあると思うけど。

■以下のブログに、14年前に上映された16㍉プリントに即した梗概が記録されていて、参考になる。最終的なストーリーラインがなんとなく想像できる。これをみる限り、撮りきれなかったのは、ラストの島の祭での鉄と少女絹子(二木てるみ。脚本では藤井球美となっている)の別れの場面だった可能性がある。ここは、鉄が死んだ(はずの)母親への思慕を吐き出しながら少女に別れを告げる、泣かせるシーンになっている。
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■しかし問題なのは、以下の記事によれば、映画の冒頭に「昭和16年~」というナレーションが入るらしいことだ。もちろんオリジナルシナリオには無い。そもそも史実は終戦後の話だし、舵子のひとりは広島の原爆で両親を失っている設定だ。これが事実なら、映画公開当時はまだ関係者が各所に現存していたため、どこかからの圧力があり、あくまで昔話ですよ、そんな最近の話じゃありませんよという体裁に取り繕う必要が生じたせいで、脚本の大幅な改定が生じた可能性がある。
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