秘録怪猫伝
1969 スコープサイズ 82分
DVD
脚本■浅井昭三郎
撮影■今井ひろし 美術■太田誠一
照明■美間博 音楽■渡辺宙明
監督■田中徳三
■とにかく脚本が酷くて、ほとんど何も考えていない。大映末期でもあり、色々とタガが外れている。ほんとならこんな脚本は通らない。浅井昭三郎は企画部出身の脚本家として大映末期にそれなりに活躍したが、時々こんな脚本を書くので要注意。
■しかし、なぜか大映京都のスタッフはノリノリで斬新な映像設計に挑む。いくらなんでも暗過ぎだろうという闇の表現。極限まで照明を減らして、ひたすら闇の中での探索が繰り返される。ホントなら主役なり脇役にそれなりのドラマを与えないと映画は盛り上がりようがないのだが、本作はそこは思い切って切り捨てて、映像そのものの力だけで観客を振り回そうとする。だから、ドラマ的にはとても退屈なのだが、映像表現と音響効果にはやけくそなパワーがある。
■戸浦六宏と小林直美のきょうだいはもっと陰謀を巡らせていただろうし、だからこそ最期のきょうだいの殺し合いが凄惨な悲劇に見えるはずなのだが、浅井昭三郎はそんな気はさらさら持っていない。東映の脚本家ならぜったいじぶんの本音をそっと脇役に託すものだが、もう大映末期でそんな余裕もない様子。でも後の『怪談累が渕』『おんな牢秘図』なんか良かったよなあ。
■殺人事件スキャンダルで有名になった毛利郁子が妖怪としての化け猫を見事に演じ、長すぎる真っ赤な舌で油をぺろぺろ舐める場面は、ほんとにエロいし怖い名場面。後半は小林直美が化け猫化するのだが、だれも演じたがらない役を大映の専属女優として演じ切った根性に拍手。効果音もほとんど怪獣の雄叫びといった塩梅で、秘録シリーズと妖怪シリーズのハイブリッドという感じだ。