『藪の中の黒猫』

基本情報

藪の中の黒猫
1968/CS
(2004/10/8 レンタルDVD)
シナリオ/新藤兼人
撮影/黒田清己 照明/田畑正一
美術/丸茂孝、井川徳道 音楽/林 光
監督/新藤兼人

感想(旧HPより転載)

 武士たちに乱暴されて殺された母(乙羽信子)と娘(太地喜和子)は、黒猫の怨霊となり、夜な夜な羅城門に出没しては、武士たちを食い殺していた。頼光(佐藤慶)に五天皇に加えられた藪ノ銀時(中村吉右衛門)は鬼退治を命じられるが、羅城門に現れたのは、自分の母と嫁の姿だった。妖しの屋敷に入り浸るうち、嫁は再びめぐり合えたことを喜びながら成仏するが、母は右腕を切り落とされても、物忌み中の主人公のもとへ怪物となって出没するのだった。

 物語の構成としては一応れっきとした伝奇映画であり、怪談映画、化け猫映画でもあるのだが、こうした単純な物語をなぜか2時間もかかって物語ってしまう新藤兼人の演出は、この監督の悪い部分ばかりが肥大した駄作を作り上げてしまった。

 母親の妄執を描くのに能の様式を取り入れるのは悪くないし、幻妖な雰囲気をかもし出すセットも決して悪くは無いのだが、演出のすべてが間延びしている。大体、脚本からしてあまりにも定石どおりで新解釈がなく、溝口の「雨月物語」に迫りたいと考えたのかもしれないが、演出や映像のリズムが単なる冗長に堕しているのは、救いがたい。

 溝口伝説のひとつである入江たか子の化け猫映画に対するオマージュともなっている点は興味深いのだが、田中徳三が69年に撮った「秘録怪猫伝」と比較すれば、あまりにも演出的にも戦略的にもお粗末というしかない。

 そのせいで頼光の佐藤慶は漫画的に見えてしまう。一方、最初の加害者であり犠牲者となる武者を演じる戸浦六宏の見せ場が多いが、これも役柄に工夫が無く、冴えない。むしろ1シーンのみの出演となる殿山泰司の天然な農民ぶりが輝いて見える。


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