東京が戦場になった日 ★★★

■このところ東京大空襲を扱ったドラマが次々と作られているのは何か政治的な意図があるのかなあと感じずにはいられないけど、毎回やっぱり気になって観てしまう。日本テレビ開局55周年記念ドラマ『東京大空襲』は大規模な特撮も駆使した超大作だったが、脚本(特に第一部)に混乱があり、少々勿体無い出来栄えだったものの、かなり念入りに掘り込んだ何人かのキャラクターの最期には胸を突かれたものだった。そもそも東京空襲というテーマは70年代以降、東宝とか日活で何度も企画されながら諸条件が整わずお流れになってきた日本映画界の伝統企画でもある。
■そこで本作は東京大空襲になすすべも無い消防士の姿を中心に人道的に許されるはずのない無差別空襲にいたる戦時下のドラマをコンパクトに上手くまとめている。原案は中澤昭、脚本は中園健司、音楽は佐橋俊彦、演出は伊勢田雅也。お話のスケールは限定されているけど、さすがにNHKだけあって、非常に金がかかっている。
■この手のドラマは現在の老人の回想形式にすることが今や完全にお約束になってしまったが、本作も例に漏れず、非常にオーソドックスな作劇なので、安心して観ていられる。いや、正直に言えば、こうした画一的な形式はもういい加減にやめて欲しいのだが。
■しかし、特に感心したのは朝倉あき演じる聾唖の女子挺身隊員が機銃掃射で虐殺される場面を流血を伴った演出で見せた点だ。もちろんVFXによって合成された血しぶきだろうが、演出的には十分に鮮烈な場面となっており、こうした場面は間接的に描かれることが多かったため、機銃に胸を撃ち抜かれるカット(しかも3回繰り返される)は衝撃的な場面になっている。民放ならまだしも、NHKなのに、これはホントによくやったと思う。正直他には手垢のついた演出も少なくないのだが、この場面だけでもこのドラマは価値がある。
■でも、日本テレビ版『東京大空襲』ほどに鮮烈な人物像は見られなかったなあ。上記の場面は突出していたけど、それ以外に突き抜けた登場人物がなかったのは残念だ。東京大空襲東日本大震災気仙沼の惨状を重ねるのはまあ作劇術としては当然のことなのでね。
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