旧世代は滅び去るのみ!『地球最後の男』

基本情報

The Last Man on Earth ★★★
1964 スコープサイズ 86分 @アマプラ

感想

■3年前、謎の病原体で人類は死滅した。いや、彼らは吸血ゾンビと化した。たった一人生き残った俺は昼間は寝ている奴らに止めを刺して回るのが日課となった。そんなある日、街で生きた女を見つけたが、あれは敵か、味方か?

リチャード・マシスンの有名な小説の映画化で、低予算ゆえローマでイタリア人スタッフを使って撮影された。当時の低予算映画ではおなじみの手法。脚本も本人が書いたらしいが、製作陣と揉めて変名を使ったらしい。

■しかし低予算とはいえ、当時技術的に完成の飽和点に達していたモノクロ撮影なので、リマスターのおかげもあり、非常に綺麗。特に照明に凝ったふしもなく、ごく普通にステージ撮影しただけだが、イタリアの映画職人のおかげで、十分に綺麗で、インテリアなど豪華にすら見えるから不思議。さらに無人で殺伐としたローマ近郊の(?)情景が、近未来都市にも見えるし、懐かしい風景にも見えるあたりが貴重で、モノクロのおかげもあり妙にハイセンスな映像にも見える。

■第一幕は地球最後の男のヴァンパイアハンターとしての日常を描き、第二幕で風に運ばれる病原体による地球滅亡と家族の死(吸血ゾンビ化)を描き、第三幕でついに自分以外の生きた人間が登場するという構成。このあたりの展開はリチャード・マシスンなので全く危うげがなく理知的。ただ、演出家の限界もあって、第三幕がいまいち弾けない。

■というか、少々説明不足の感があり、多分原作小説では問題ないはずだけど、映画ではもう少し設定の重要ポイントを際立たせる必要があると感じる。地球最後の男、吸血ゾンビ、そして第三勢力という三角関係が登場するので、観客には頭の整理が必要になるので、特に吸血ゾンビと第3勢力の構図というか区別が少し分かりにくいわけですね。吸血ゾンビを第三勢力に変貌(進化?)させたのは誰か、とか気になってしまう。

■第二幕まではSF怪奇映画という道具立てが魅力なのだが、第三幕は活劇に変じてしまうのも残念なところで、主演のヴィンセント・プライスの死は一応怪奇映画のセオリーを踏襲しているのがマシスンの偉いところだけど、演出的には十分でないと感じる。

■主人公は第三勢力を「怪物!」と呼ぶのだが、それは巨大な変化に適応できず駆逐されざるをえない旧世代の断末魔でもある。彼は幸運によって生き残った選ばれしものではなくて、むしろ病原体に感染するという通過儀礼に参加させてもらえなかった疎外者でもある。旧世代の悲劇でもあり、疎外者の悲劇でもある哀しすぎる物語で、妙に身につまされる映画なのだが、終盤の演出は十分にそのことを表現できていない気がする。ああ、勿体ない。

■そこのところをちゃんと理解しているヴィンセント・プライスおじさんもお気に入りだと語る本作。アマプラではとてもきれいなリマスター版が観られるのでその筋の好事家は必見ですよ。

参考

▶こちらも有名ですね。かなり秀逸な映画(特に前半)でしたが、後半の展開忘れてしまったなあ。
maricozy.hatenablog.jp

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