■韓国で実際に起こった聴覚障害者の学校での幼児に対する性的虐待事件をもとにした小説を映画化した問題作。実際の事件はとてつもなくえげつないものだったらしいが、本作では日本映画では不可能な次元まで突っ込みはしているが、それでもトータルとしては非常に安心して涙することができるようにマイルドな味付けにしてある。ストレートな残酷描写は無い(少年はボコボコに殴られるけど)が、よくもここまで踏み込んだ描写をしたものだと感じる部分はある。
■聴覚障害者学校の教師や校長たちが個人的にど変態でしたという悲劇ではなく、霧の街という架空の地方都市全体の腐敗だとしている点が興味深い。実際、性的虐待だけなら個人的な問題だが、その事件をめぐる警察、裁判所、宗教界の対応の中に、地方都市の膿が表現されている。最近の日本映画ではなかなか描かれないが、日本の地方都市にもさまざまな腐敗や悪徳が潜んでいるはずで、それは映画のテーマの宝庫であるはずなのだが、韓国映画では相当意識的に取り組まれているようだ。最近話題になった映画でも、事件の起こる土地や社会の問題込みで人間をを描こうとする傾向が強い気がする。それに比べて、日本映画はどうだろうか。
■それにしても奇妙なのは、この監督、明らかに怪奇映画のテクニックを参照していることで、たとえば序盤の展開など『血を吸う薔薇』とそっくりだ。未知の街の学校に赴任した新任教師が教え子たちの生き血をすする悪魔と対決する話という意味で、非常に似ているのだ。ある意味、怪奇映画の定番ともいえるストーリーテリングになっている。
■それにしても、ジム・ローチの『オレンジと太陽』もそうだったけど、隔絶した環境下のキリスト教組織では幼児に対する性的虐待が生じやすいという、なにか民族的あるいは土俗的な理由があるのだろうか。そこには、単にその時変質者が権力を握っていたという特殊性の問題ではなく、ある意味普遍的な問題が潜んでいると思わざるを得ないのだが。