わたしは、マイルド生地獄に生きる女!『縮図』

基本情報

縮図 ★★★☆
1953 スタンダードサイズ 133分 @DVD
原作:徳田秋声 脚本:新藤兼人 撮影:伊藤武夫 照明:田畑正一 美術:丸茂孝 音楽:伊福部昭 監督:新藤兼人

感想

佃島の貧しい長屋に住む靴直しの家の娘は芸者に売られるが、悪い男たちに翻弄されるばかりだ。芸者に嫌気が差して家に帰るが、父親が肺病で働けなくなるとまた東北の街で芸者に戻る。しまいには幼い妹まで病気にかかってしまうが。。。

徳田秋声の有名な未完小説を原作に、新藤兼人の大胆な刈り込みによって描く貧しい女の半生。貧しい実家を支えるために芸者に出るが、当時の芸者は人身売買にほかならず、置屋の親父(菅井一郎)には手篭めにされそうになるし、慕った男(沼田曜一山村聡、山内明)はことごとく女を裏切った。それでも流れ流れて芸者として生きるしかない女の赤裸々な生き方をビビッドに綴る、残酷おもしろ映画。この時代の映画にしてはキャメラがよく動き、日本間の空間の切り取り方が、たしかに少し新しい。新藤兼人は本作のためにベビークレーンを導入して、小刻みによく動く活動的なキャメラワークを実現した。

■いちばんの見所は芸者としての生活のなかで見せる様々な人間像の赤裸々な姿で、新藤兼人は人間の浅ましさを強調する。菅井一郎のエロ親父描写も容赦ないし、山田五十鈴の芸者の置屋の女将のヒステリー演技もいつもの五十鈴とはタッチが違う。

乙羽信子演じる銀子の父親が宇野重吉で、この頃の重吉はちゃんと演技をしてるから、見ごたえがあるよ。当然セリフは多くないけど、その姿形、シルエットで、身を苛む貧困の重みや不器用な職人ぶりをスクリーンに刻みつけて説得力がある。この映画では、確かに宇野重は名優なのだ。

置屋で急病で死にかけて家に戻される場面がクライマックスで、このあたりの、貧困が寒々と身にしみる映像表現の数々はさすがに泣かされるが、「芸者にだけはなるな」と必死の遺言かとおもいきや、幼い妹の方が先に死んで、本人はちゃんと恢復し、やっぱり芸者で生きるしかなくて置屋に舞い戻る。ああ、これがソフトな生き地獄なんだなあと、観客が納得できる作りになっている。新藤兼人の気合の入った脚本もさすがに堅牢だし、演出だってメリハリもえげつなさもあって、素材は地味だけど娯楽要素満載の堂々の娯楽映画なのだ。本作はちゃんと新東宝で全国配給されている。

■夜景の空に花火が打ち上がるカットがあって、合成だろうと思うのだけど実に見事なので感心した。乙羽信子の移動につれ、ピントが前に移動するとちゃんと背景でボケるのだけど、合成じゃなくて実景ロケなのかなあ?ホントに?

■主人公の実家が路地に住む貧しい靴屋(といっても靴の修理が生業)という設定なので、当時の某大学部落問題研究会から抗議を受けたらしいが、どこが差別なのか、映画見てから文句言えと突っぱねたという素敵なエピソードが残る。後の『女の一生』でも解同から抗議があり、一時揉めたらしい。いかにも当時らしいエピソードですね。

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