あれが港の灯だ ★★★★

あれが港の灯だ [DVD]
あれが港の灯だ
1961 スコープサイズ 103分
DVD
原作■水木洋子 脚本■水木洋子
撮影■飯村雅彦 照明■森沢淑朗
美術■下沢敬悟 音楽■林光
監督■今井正

■李承晩ライン付近で日本漁船が韓国に拿捕、抑留されていた頃、果敢にラインに攻め入ろうとする長崎の漁船には、在日コリアンの漁民の姿があった。彼は二つの祖国に引き裂かれる運命をまだ知らなかった・・・
水木洋子が執念で書き上げた力作脚本を元にしたいわゆる社会派映画だが、独立プロではなく東映の製作なので、クライマックスは豪快な海洋活劇になって吃驚する。しかも、特撮は一切無しで、全部実船を使ってロケを行い、海上保安庁も協力して巡視船を登場させる。
■この映画は日本映画史上ではほとんど言及されないが、非常に重要な作品かもしれない。というのも、メジャー映画で初めて在日コリアンが主役となった映画らしいのだ。もちろん「にあんちゃん」という有名作もあるのだが、あれは在日コリアンとしてのアイデンティティには敢えて(?)触れず、表面上貧しい日本の子供という見方ができるように(意図的に?)作られていた節があるのに対し、こちらは堂々と在日コリアンのカミングアウトを描くのだ。彼をそこに導く重要な脇役として岸田今日子が登場して、在日の娼婦を演じる。このあたりは演技的にも凄いし、水木洋子の書く台詞も絶品。
■それにしても水木洋子がこんな活劇魂を表現するとは意外や意外。韓国の怪船に追われた漁船の前に海上保安庁の巡視船が割って入って、ジグザグ航行で行く手を遮る場面など、ロケ撮影の迫力もあって、痛快の極み。巡視船を西部劇の騎兵隊のように描くとは、左翼映画人としてどうかと思うが、今井正の本領は主義者としてではなく、映画屋としての嬉しがらせの腕にあったに違いない。
■しかし、ラストに漁船の中で一対一で対峙する江原真二郎木村功の対立は、あまりに残酷で(グロじゃないよ)胸が痛くなる。日本人の同僚からは裏切り者と罵られ、韓国人からは半日本人と踏みつけにされる。観るものの心に深い傷をぐさりと刻み込んだ痛みの頂点で映画は幕を下ろす。「真昼の暗黒」同様、社会派映画のお手本だ。