真夜中の招待状 ★★★☆

真夜中の招待状
1981 ヴィスタサイズ 125分
DVD
原作■遠藤周作 脚本■野上龍雄
撮影■川又昂 照明■小林松太郎
美術■森田郷平 音楽■菅野光亮
監督■野村芳太郎

■兄3人が次々と蒸発した婚約者(小林薫)の身を案じて精神科医高橋悦史)に相談したヒロイン(小林麻美)は婚約者の兄たちに何があったのかを探るうち、事件に関係あるという怪しい心霊写真や奇怪なスケッチ画を入手する。しかし、婚約者がついに失踪してしまい・・・

■公開当時から都会派ミステリーとか、心理サスペンスといった売り文句で公開されたはずで、イメージビジュアルも小林麻美のグラビア的なお洒落なデザインで垢抜けていたのだが、初めて観た本作、そうした宣伝戦略からは真逆の方向に迷い込む異形の映画だった。宣伝ビジュアルは諸星大二郎の「不安の立像」のようなものもあり、お洒落かつ怪奇で、なかなか秀逸なのだが、終盤で野村芳太郎の独壇場に迷い込む本作は、多分に「八つ墓村」と地続きで、もっと泥臭く、とんでもないものを見せつけられる。

精神分析ミステリーを思わせる前半の展開はいかにも松竹的な垢抜けなさと野村芳太郎のテキパキとした演出がいい味を出しているが、四人兄弟の末弟が失踪してからの事件の真相が、まことに思いもよらない驚愕の展開を伴い、ミステリー映画から怪奇映画に転調する。本作は、なんとミステリー仕立ての怪奇映画だったのだ!このくだり、ほんとに驚愕。遠藤周作の原作は当然こんな展開ではないらしい。「震える舌」の次にこんな映画を撮る野村芳太郎の”心の闇”に興味は尽きない。というか、らい病とか児童虐待で大衆の紅涙を絞って味をしめた野村芳太郎の悪乗りと考えるのが適当だろう。「震える舌」とか本作とか、普通の監督なら企画自体通りませんよ。

■しかし、ある存在そのものを恐怖として描くのではなく、その存在に対する登場人物たちの心理的反応を描く方に力点があり、その存在は人間たちの本性を炙り出す象徴的なものとして描かれている。ことに、小林薫の絶妙の反応を的確に表現するあたりは野村芳太郎の冴えが極まるし、さらにダメ押しも映画的には見事の一言。その後の気まずくなった二人の関係とか、それを客観視する大人の視点とか、そつのないフォローがいつもながら上手いので、気持ちよく劇場から帰ることができる。まあ、不幸なある存在に救いは訪れないわけだが・・・


参考

原作小説もまだ流通してますね。終盤の謎解きが全く異なるそうです。まあ、どっちも業が深い。

maricozy.hatenablog.jp

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