やっぱり野村芳太郎の世界認識は歪んでいる!?怪奇残酷刑事ドラマ『東京湾』(ネタバレあり)

基本情報

東京湾 ★★★★
1962 スコープサイズ(モノクロ) 82分 @MoMAK
企画:佐田啓二 脚本:松山善三、多賀祥介 撮影:川又昂 照明:青松明 美術:宇野耕司 音楽:芥川也寸志 監督:野村芳太郎

感想

■ある男(浜村純)が白昼堂々狙撃される。犯人は左利きの男だ。実は男はマトリで、捜査線上に麻薬組織の関与が疑われ、売人の男(佐藤慶)をマークするが…

野村芳太郎の有名な映画だけど、なぜか観る機会がなくて、やっと観ました。しかもMoMAK(京都国立近代美術館)で。上映環境が昔のぶんぱくみたいで感慨深かったなあ。台詞が籠もって聞き取りにくいのは、フィルムの録音状態だろうか。フィルムセンターのプリントなので、状態は当然良好で、黒の締りが良い。大映ほどハイコンではないけど、黒はグレー系ではなく、真っ黒。

■いわゆる社会派の刑事ドラマをイメージしていたのだけど、前半は確かにそんなムードでオーソドックスな刑事モノの着実な演出と、リアルなロケ撮影でぐいぐい魅せるのに、徐々にドラマが横滑りし始め、麻薬犯罪捜査から、隠しておいた真のテーマに移行していく。この構成はなかなか大技で、実質的な主役は西村晃だったとわかる。

■北支の戦場で出逢って、偶然に生還した日本兵が再会して、地獄の釜が開いてしまう。せっかく生きて帰ったのに、そして17年が経過して、平凡な幸せを甘受しつつあるのに、彼らの中にはまだ戦場の命のやり取りという時空が生き続けていた。それが開放されるとき、どんな惨劇が待っているのか?という裏テーマ、というか真のテーマが圧巻で、クライマックスの列車ロケによる惨劇は、ちょっと開いた口が塞がらないえげつない描写で、野村芳太郎、やっぱりどうかしてると思う。地獄のインパール作戦の生き残りは、戦場体験のトラウマを内面化して、人間感や世界観が常人の追いつけない次元に変質しているに違いない。ここに描かれるのは、野村芳太郎の復員兵としての戦場で変質した世界認識そのものであって、その歪さを隠そうとしない。俺達にとっては、戦後の17年間のほうが幻じゃなかったのか?本当は、17年前のあの北支の最前線で敵兵に撃たれてクタバッていたのではないか?ーーホントにそんなお話なので、唖然とする。

■有名な(?)西村晃のショックシーンは完全に怪奇映画のタッチで、のちの怪奇スターを予見しているし、そもそもリアルな写実的な演出を積み上げてきたはずなのに、クライマックスで一挙に怪奇映画に転換するなんて離れ業が成功するはずないのに、やってのける、異常事態だ。脚本家は、ロジカルに考えると無理のある強引な展開だなあと感じながら書いていたはずだけど、演出家の強靭かつ明確な意志で、変調しているのだ。

■さらに、玉川伊佐男の頭の弱い妻という当時ならではの雑な設定(韓国映画ならいまだにあるかも)も人権感覚的なデリカシーには欠けるけど確かに効果的で、葵京子という女優が大いに役得でみんなの同情を誘う(だからそういうのがダメなんだ!)。荒川脇のボートハウスのロケ撮影が秀逸で、葵京子を追ってキャメラがゆっくり横移動し始めると、もう泣けてくるし、傑作確定。ラストなんて辛すぎて、もう観てられないほど。。。

松山善三という人も掴みどころがなくて、女性ドラマの名手というイメージなのに時々刑事ドラマを書きだして、しかも妙に戦闘的な大胆な趣向をぶち込む。本作もその一例だし、『野獣狩り』なんてのもある。ヌルいドラマばかり書いていると、あるいは高峰秀子と暮らしていると(?)、何か溜まってくるのだろうか??


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