感想
■新婚の夫(南原宏治)は前任地の金沢に引き継ぎに行ったきり消息を断つ。行方を探す妻(久我美子)のもとに、夫の兄(西村晃)が同地で死んだ知らせが届く。。。まあなんと言いますか、とにかく奇々怪々なお話(原作由来)で、語り口もかなり特殊で独特。なにしろ松本清張の長編を約90分に凝縮したので構成に無理があり、奇々怪々な回想劇になっている。
■回想劇は橋本忍の十八番で、独自の世界観を持っているけど、本作の場合はさすがに奇怪だ。正直無理がある。そもそも、脚本家の世界では、安易に回想は使うなという了解があるけど、まあミステリなので、どうしても回想が入ってくるわけ。ミステリの場合、回想なしでは普通無理。石井輝男なみの大回想まで駆使して、ギチギチに詰める真相の解き明かしは圧巻でもあるけど、むしろ奇怪の域に達している。しかも、推理劇なので、単なる回想ではなく、ただの想像だったりするから余計に厄介だ。その意味では後年の『影の車』などのほうが完成度は高いと思う。
■そもそも橋本忍て、実はキワモノ趣味の人で、そのことは桂千穂(だけ)が聞き出していることだけど、実は『八甲田山』とか『八つ墓村』などのキワモノ趣味が、本来の作風のルーツにある。多分、その嗜好で野村芳太郎と意気投合したのだろうと思うけど、本作でも怪奇趣味を隠さず、高千穂ひづるが名演(怪演?)を見せるし、西村晃はちゃんと怪奇要員(!)として機能するのだ。2時間サスペンスに延々と引き継がれた断崖での告白の場面も、さすがに凄い撮影で、合成も何もない撮り切りの画だけど、めまいがするほどの効果。
■事件の真相云々もあるけど、女優たちの演技がエグいことになっているのが、さすが野村芳太郎で、高千穂ひづるの緩急自在の演技は素朴に凄いと思う。こんなにデキる人だったの?怖い怖い女の表情から、なんだか抜けたコミカルなリアクションまで、その振幅と、エッジの効いた瞬間演技(映画だからね)は、なかなか真似できる人がないだろう。対する、訳アリの女、有馬稲子の巧演も凄くて、脇役に過ぎないのに凄い実在感、見直しました。凄い実力派ですやん(当たり前か)。相当に無理のある筋立てと展開なのに、女たちの人間像が浮いてなくて、地に足のついた虚構になっている。そこは素直に凄いと感じる。やっぱり、野村芳太郎は、演技指導に手間を掛ける人なんだろうなあ。
■そのなかで割りを食うのは主演の久我美子で、普通の若妻役なので、狂言回しに終止しがちだけど、ところどころ妙に可愛いから良かったね。結婚するかしないかのタイミングの平田昭彦は喜んだろうね!
■ちなみに、黒沢清は車内のシーンをスクリーン・プロセスで敢えて不自然に撮るスタイルが有名だけど、それもいいけど、本作のラストあたりの手法を使って、車をトラックの荷台に乗せて撮ると、どこか違う世界線を走っているような妙なニュアンスが出るから、この手法を真似するといいと思うよ。

