1986年、堀内正美は吸血蜘蛛男だった!現代怪奇サスペンス『蜘蛛』

■1986年の本放送のときに録ったビデオテープが出てきたので、久々の再見。まあ、3~4回は観てますがね。

■ユニオン映画の制作で、原作:遠藤周作、脚本・監督が石井輝男、撮影:出先哲也、照明:野口素胖、美術:古谷良和、音楽:鏑木創という布陣。実は本作よりも、同時に撮影された『怖い贈り物』の方が正真正銘のサスペンスの傑作なんだけど。

■正直なところお話のほうはあまり面白くはなくて、結構有名な原作小説のエッセイ風の怪奇譚という感じの原作のラフな構成を生かしたエッセイ風怪奇ドラマといったところ。ただし、映像設計のこだわりは壮絶で、当時のビデオ撮影でここまで照明に凝ったドラマは珍しいと思う。石井輝男って、映像的なこだわりよりも奇想とか過剰なギミックに愛がある人という気がしていたが、本作の濃厚な怪奇映画風味はどこから出てきたのだろう。

■主人公の作家(山口崇)が熱海の妖しい温泉宿で遭遇した蜘蛛の幻想。女将(結城美栄子)の娘は皮膚病を患って弟とともに出奔したというが、怪談会の帰りにタクシーで同乗した陰気な青年(堀内正美)は顔に謎の皮膚病をかかえる女(島村佳江)の話を語り始める。。。

■青年の話自体が実は、自分の姉に起こった事実を脚色したものだったという解釈でいいのだろうか。ラストに二人で夜の竹林に消えてゆく姿がそのことを裏付けているように思うが。そこを明確にしないのは、原作を踏襲したのだろう。というか、石井輝男の工夫ということだろうか。

■白塗りで、唇を真っ赤に塗り、特殊メイクで蜘蛛のような長い指をつけた堀内正美の怪奇な姿がとにかく圧巻で、イメージ的には「血を吸う」シリーズの岸田森を想起するのだが、石井輝男はたぶん観ていないし、そんな意図は無かっただろう。堀内と島村が雷で停電したレストランで人の皮膚の下に卵を産み付けるという奇怪な”くすね蜘蛛”の話をする場面なんて、石井輝男の超絶演出テクニックが冴えわたり、ビデオドラマとしては挑戦的な暗い照明も効果的で、実に怪奇ムード満点。山口崇堀内正美のタクシー内でのやりとりも、セット撮影であれだけ濃密に怪奇ムードを生み出すのはさすがに凄い仕事ですよ。

■人の血を吸って成長する”くすね蜘蛛”に寄生された女は遂にみずからも吸血鬼に変貌したのだろうか。そして弟を巻き込んで人外魔境に堕ちたふたりのきょうだいは、今日も夜の竹林を獲物の血を求めて彷徨うのだろうか。その省略され仄めかされたきょうだいのドラマにこそ、真の怪奇ロマンがあると思うのだが。

■やっぱり、「血を吸う」シリーズの影響大だと思うなあ。石井監督、ちゃんと観てるんじゃないかなあ。

参考

原作小説は以下に収録されております。有名小説なので、本のタイトルになっちゃってますよ。

蜘蛛 (ふしぎ文学館)

蜘蛛 (ふしぎ文学館)