はやぶさ 遥かなる帰還
2012 スコープサイズ 136分
Tジョイ京都
原作■山根一眞 脚本■西岡琢也
撮影監督■阪本善尚 照明■大久保武志
美術監督■若松孝市 音楽■辻井伸行
VFXスーパーバイザー■野口光一
監督■瀧本智行
■堤幸彦の「はやぶさ」は残念ながら未見なので、はやぶさプロジェクトに関する予備知識はほとんど無しの状態で観たおかげで、非常に楽しめた一本。はやぶさ君のトラブル続きの苦難の旅の顛末だけでも十分に感動的なのだが、本作ははやぶさ自体の擬人化はせず、あくまでプロジェクトに関わった技術者、研究者たちの地道な努力のドラマとして描き出す。脚本はベテラン西岡琢也で、製作陣の脳裏には「陽はまた昇る」の要領でとの思いがあったようだ。本作のテーマはずばり”継承”で、劇中では”順繰り”という言葉で表現される。しかも、それは世代間の継承だけではなく、水平方向に渡されるバトンのことも指しており、群像劇の背景に垂直、水平の両方向に串が刺されているため、非常に堅牢な構成になっている。こうした骨太な芸当はベテランならではのお楽しみだ。
■しかも、本作の瀧本智行監督の落ち着き払った演出が実に見事で、無意味に盛り上げようとしない姿勢が貴重だ。各エピソードはフェードアウトで静かに締めくくられ、事故が起こるたびにかねや太鼓が鳴り響くといったハリウッド映画のような演出は皆無だ。男たちは静かに黙々と困難に対処するのだ。渡辺謙、山崎努、藤竜也、嶋田久作といった面々の硬派な男汁がじわじわと効いてきて、クライマックスにはちゃんと静かな感動が広がるのだ。あまりにも女気がないので、夏川結衣の役が設けられているが、山崎努と親子で、孫がありという風に構成上工夫がしてあり、邪魔にはなっていないし、クライマックスの電話のシーンもべたつかず上手い。
■なにしろ撮影が阪本善尚なので、ルックは黒の締まった硬質なタッチながら、やはり流麗で、淀みがない。しかも、デジタルビデオ撮影のデジタル上映なのに、フィルム撮影にしか見えないというマジック。デジタルビデオでここまでコダックのトーンができるなら、フィルムは不要じゃないかと言われかねない危惧すらある。ただ、暗めのシーンはほとんど破綻がないのに、明るい昼間のシーンなどの色調や光線の具合に若干の不自然さがある。
■今回は阪本善尚が実質的な特撮監督で、東映アニメーションがCGを制作したが、見せ方としてはかなり地味。質感にこだわり、宇宙空間の照明にこだわりという取り組みは理解できるが、もう少し派手は見せ場があっても良かったのでは。ラストのカプセルの突入場面も意外なほどあっさり。あと、冒頭のロケット打ち上げシーンはさすがにミニチュアじゃないと苦しい。
■思えば、「さよならジュピター」から28年、日本映画でこれだけきちんと宇宙を描いた映画が製作されたことは、それだけで画期的だ。ラストのクレジットを観ながら、感無量の思いに包まれた。
■製作は東映、住友商事、テレビ朝日ほか、制作は東映東京撮影所、スタジオ88。
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