海は全てを覚えている。『ミッドウェイ』

基本情報

Midway ★★★
2019 スコープサイズ 138分 @アマプラ

感想

■映画の主眼はCGアニメによる大空戦や海戦にあるので、ドラマは薄い。とにかく全編デジタル合成だらけで、撮り切りのカットは数えるほどしかないだろう。当然のこと、複数のVFX工房に外注されていて、Scanline VFXとPixomondoがメインのようだ。シーンによって品質にはそれなりにバラツキがあって、特にひどいのは空母の甲板上の場面で、明らかに背景が合成されているのだが、海上にも空にも奥行き感がなくて、ベタッとした一番残念なタイプのデジタル合成。これなら書割のほうがマシだと思う。こうしたシチュエーションは、技術的にはそれなりに難しいものらしく、その昔本邦の『ローレライ』でも同様のことを指摘して、VFX担当の佐藤敦紀氏にコメントを頂いたことがあるが、案外進歩していないのだ。

真珠湾のシーンはいかにも作り物っぽくて、ステージ撮影にしか見えない炎上スペクタクル場面もかなりひどい。空戦場面なども、空撮の実景かと見紛うシーンもあれば、ゲームCGかと思うシーンもあり、やっぱりバラついている。正直、CGアニメには食傷気味で、お金払って観たくはないのだが、アマプラなので付き合うよ。いまさらなにも感じないのだが。

■むしろ本編は人間ドラマ部分に妙味がある。特に、『太平洋の嵐』では三船敏郎が演じて、本作は浅野忠信が好演する山口多聞少将が儲け役。國村隼が演じる南雲中将は完全に嫌われ役で、「更迭しないといつかきっと大失敗をやらかしますよ」と陰口を聞かれてしまう始末。実際、ミッドウェイ海戦で大きな判断ミスをおかす。対する浅野忠信は持ち前の自然体演技がうまくハマって、軍人のリアリティを感じさせる。「うろたえるな、お前将校だろう!」とさらっと気張らず言ってのける場面など、妙なリアリティアがある。

■ハリウッド映画に日本人が登場する場合、スタッフの日本語の発音に対する感性の違いなのか、アメリカの俳優の声の圧に比べて何故か声に芯がなく、ふにゃふにゃして聞こえることが多々あるのだけど、本作も同様で、録音スタッフなのかミキシングスタッフなのか、特に脇で喋るセリフに芯がない。通常セリフは効果音から切り離して、独立したトラックとして整理するはずだけど、周辺の効果音と同等の扱いになっていて、結構重要なセリフなのに、セリフが立っていない。ハリウッドのアジア系俳優の演技力の問題もあるが、音響スタッフの認識によるところが大きいと感じる。

■あとはこれもありがちなところだが、日本側の重要な役には日本俳優を使うけど、脇の押さえの役どころにはハリウッドのアジア人俳優を使うので、かえって日本人俳優が映えないことがある。つまり、日本映画で主役級がちゃんと立つのは、脇役が一定の演技クオリティで支えているからだということを教えてくれる。ハリウッド映画で日本人俳優がいつもどおり演じていても、脇役がふにゃふにゃして頼りないと間抜けに見えてしまうのは、そういうことなのだ。だから、日本パートを日本で撮った『トラ・トラ・トラ』は、まだ鑑賞に耐えるというわけ。ちゃんと脇役に至るまで役者が揃っているからね。

■でも一番の問題は、主役のエド・スクラインに見覚えがないし、単純に人相が悪くて悪役にしか見えないことや、重要な脇の若手の配役が知らない人ばかりで区別がつかないこと。主役級の中堅、ベテランどころはかろうじて見分けがつくとして、重要な役柄の飛行士や甲板士たちの繋がりがわからないから、ドラマとして成立しないのは残念。

■ちなみに、監督のローランド・エメリッヒは嫌いじゃないよ。ちゃんと毎回それなりに楽しいじゃないか!

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