雪の断章 情熱
1985 ヴィスタサイズ 100分
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原作■佐々木丸美 脚本■田中陽造
撮影■五十畑幸勇 照明■熊谷秀夫
美術■小川富美夫 音楽■ライト・ハウス・プロジェクト
監督■相米慎二
■1986年の東宝正月映画である。同時上映は大林宣彦の「姉妹坂」である。斉藤由貴と沢口靖子は当時の東宝の顔だったのだ。この映画をちゃんと観るのも、封切り以来だと思うが、まあ、記憶以上に奇怪な映画だ。こんな映画が、よくも東宝の正月映画としてパスしたものだと呆れる。まあ、東宝も相米慎二の性癖(?)は心得てはいたと思うが、それにしても予想以上の暴れっぷりではなかったか。
■冒頭の何シーンかが、一気にというか、無理くりの長回しで描かれるのがこの映画に関する話題の中心であったのだが、これは何度見ても、意味がないし、映像的にも、美術的にも、実際のところはいいところが無い。ただ、相米が大東宝の正月映画を撮るということの意義を無理やり捻り出しただけというのが真相だろう。相米慎二は田中陽造の脚本には全く興味がない様子で、ただ、やりたいことを強引にぶち込んでいる。長廻しといえば、函館の岸壁の飲み屋街を描いたシーンなどのほうが、正統的なキャメラワークで、完成度も高いし、アクロバットという観点からは、斉藤由貴が川に飛び込んで傷ついた鳥を救い上げる場面の長廻しのほうが痛快だ。
■東宝は斉藤由貴を薬師丸ひろ子のようにアイドル女優として開花させたかったのだろうが、どうも相米慎二とは相性がよくないようだ。後の大森一樹とのコンビのほうが、溌剌としている。まあ、桜の木を囲んでの三角関係を長廻しで見せる場面なども、名シーンではあり、ロケによる長廻しに秀逸な演出が見られるのに、ステージ撮影の窮屈さはなんということだろう。個人的には、熊谷秀夫の照明は苦手なので、特にステージ撮影の映像設計については、不満が多いのだが。