■この歳になってはじめて観たんだけど、これは今の戦争映画の感覚からすると相当に捻った変な映画に見える。この映画の大ヒットの後、同じ製作陣で『トラ・トラ・トラ』が製作され、日本でも『日本の一番長い日』が製作されたように、非常に大きな影響を残した超大作だが、今日の、というか『プライベート・ライアン』以降の臨場感重視の戦争映画に比べると非常に暢気な映画に感じられる。しかし、その暢気さと豪胆さが何ものにもかえがたい本作の魅力だ。そもそも、3人も監督を立てて、一本の筋の通った映画が出来上がったこと自体に感心する。THE LONGEST DAY
1962 スコープサイズ 179分
DVD
■この時代の戦争映画は当然CGやVFXの技術を持たないから、まだ戦場の地獄絵図をストレートに表現することはしないのだが、そのかわり巨大スケールのフィジカル効果でスペクタクル映像を生み出すところに豪快な味わいがあり、特にフランス軍の上陸場面のヘリコプターの空撮による長廻しの場面は伝説的な名場面だが、何度見ても凄い。作家主義的な巨匠のこだわり演出ならまだしも、多分アクション監督が撮ったらしいこの感動的な大俯瞰ショットは奇跡的とすら感じられる凄みをたたえている。しかし、この場面を見ると相米慎二を思い出すんだよなあ。この長廻しの呼吸は相米慎二そのものなのだ。相米慎二の演出スタイルの起源は実はこんなところにあったのかもしれない。
■ドラマ的にもなかなかユニークで、特にドイツ軍が就寝中の総統を起こせないために虎の子の機甲部隊をノルマンディーに送れず、あえなく連合軍に屈する場面の将校たちの歯軋りする感じなど、実に今観ても普遍的な含蓄があり、面白い。「ひたぶるにもの悲し」と呟くしかない敗者(ナチスドイツ)の姿についつい同情してしまうのが映画の面白いところだ。
■ノルマンディー海岸上陸のスペクタクルが実は意外にあっさりしているのも不思議で、予告編には空撮による派手な映像があるのに、本編ではむしろ地を這う視線で描かれているところに演出の芯を感じる。そして、実にそっけない終わり方。こんな描き方が許されていた映画観客のリテラシーの高かった頃の映画はほんとに幸せだった。