『黒喜劇』

黒喜劇 (文春文庫)

黒喜劇 (文春文庫)

■久しぶりに本格的な風邪をひいてしまって、何年ぶりかで38度の熱を出し、喉と鼻がガタガタなので、今週はまったりと昔懐かしい(?)阿刀田高の短編集を紐解いて心身を癒している。
■2001年にオール讀物に連載されたこの短編集だが、全体に調子が低いなあ。「ガラス玉遊戯」「鈍色の海」「夢のメモランダム」「愛はいつまでも」といった諸作はほんとにご冗談でしょうといった風な幕切れで、確かに話術で読ませはするものの、着地がそれではバカ話に聞こえてしまう。まあ、バカ話としての面白みというものもあるのだが。
■ほとんど唯一感心したのは「時の迷宮」という漠然とした未来に対する不安を具象化して見せた一編で、これは阿刀田らしいグルーミーな味わいの佳作だ。ただ、このオチ、というかアイディアって、初期のショートショートかエッセイで読んだような気がするのだが、はっきり思い出せない。ショートショートを焼き直したのか、あるいは短編に仕立て直したのか、確かに何かで読んだ記憶がある。
■「遺伝の研究」は阿刀田が繰り返し取り上げる”記憶の遺伝”モチーフで、科学的にはないことになっているが、でもあるとすれば怖いよね、という何度目かの変奏曲。ただ、その持って回った作劇がユニークで、人を食った、というかとぼけたオチへの導き方が可笑しい。

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