サスペンス・魔『鍋とエレベータ』

阿刀田高の同名小説が原作で、脚本:鹿水晶子 監督:山田大樹によるシリーズ「サスペンス・魔」の一編。制作は東映だけど、技術スタッフは技術協力の東通の人だろうか。

■低予算のビデオ撮影だけど、さすがにこの時代になると映像のルックが改善されている。ちゃんと黒が締まってきたぞ。

■別れを切り出された愛人(仙道敦子)がパトロン古尾谷雅人)に、3年前に前に住んでいた東京タワーが見える別のマンションで起こった事件を語り出す。深夜にきまって7階から4階に旅する女の存在に興味を持って探っていくと…

■これも原作小説は読んだ記憶がないんだけど、ドラマとしては完成度は高くて見ごたえあり。仙道敦子がちょっとした表情の変化で心理描写を表現してしまうし、古尾谷雅人の静かな受けの芝居に人柄の怖さがそくそくと醸し出されていて冷や冷やする。仙道の昔語りのエピソードがどう決着するか、時制が今に帰ってからのドラマの決着はどうなるのか、すべてがスムーズにテーマに集約されるラストは綺麗に決まる完成度の高い秀作。喜劇的なサスペンスかと思いきや、テーマは『陽のあたる場所』で、あくまでシリアス。東京タワーがシンボルとして使われている。

■ただ、このシリーズ全般に言えることだけど、ラストはもっと音楽をうまく使ってストンと腑に落とす仕掛けが必要だと感じる。『トワイライトゾーン』とか『ヒッチコック劇場』のあのイメージですよ。なんで真似しないのだろう。メリハリなしに、だらしなくエンディングの楽曲に移行するのは観ていて気持ちよくないのだけれど。



参考

同名原作は短編集『知らない劇場』に収録されています。読んでないはずはないと思うのだが、憶えていない…おかしいな。

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