ATOM ★★★☆

ASTRO BOY
2009 スコープサイズ 95分
MOVIX京都

■オリジナルの鉄腕アトムにも手塚治虫にも何の思い入れも無い、まっさらな状態で観たのだが、これはディズニーの良作「ボルト」よりも良いではないか。CGの技術面や音楽の使い方のセンスはジョン・ラセターの目が行き届いたピクサーや新生ディズニーにかなわないが、本作の監督のデヴィッド・バワーズは、彼らの偉業によく学んでいる。というか、うまく真似ている。
■実際のCG制作はハリウッドではなく、香港のIMAGI社。映像のルックは、CGっぽさを消すためか、かなり色目をくすませており、一見汚れて見える。肌色もCG映画独特の透けて見える感じではなく、暗い部分がすすけた感じに見える。コダックではなくフジフィルムを使用したのも、ルックに狙いをもってのことだから、いかにもCG風の、人形アニメのようにもつるっとした印象に見える色調や質感を嫌ったのだろう。ただ、個人的には例えば「モンスターVSエイリアン」などの、CGならではのクリアな色調の方が好みだが。そういえば、本作は背景の空の雲の表現などかなり雑で、「モンスターVSエイリアン」では、確か雲担当のアーティストやアニメーターがいたはずで、それ相応の立体感と透明感溢れる綺麗な空が描写されていた。そういった点でも、技術的には若干弱い映画であることは確かだ。
天空の城ラピュタのような空中都市の導入部分は、人間関係も含めてシリアスな展開で、いまひとつ弾けたものが無いと思っていたら、地上の廃墟にアトムが落とされてからキャラクターにも幅が出て、原作には無いキャラクター(犬型のゴミ箱とかRRFロボット革命団の三人組などさすがに上手い)や細かいギャグが冴えてきて、俄然活気を帯びる。空中都市と地上の廃墟という対照も強烈に効いているし、アトムの自分の「居場所」探しというテーマがギャグとアクションの中に上手く織り込まれている。この中盤のおかげで、終盤の空中都市での大アクションが盛り上がる。敵の巨大ロボの無骨なデザインは怪獣的なシルエットにどんどん変化してゆくのがツボだし、吹替え版では土師孝也の名演で説得力抜群だ。
■吹替えといえば、上戸彩は器用なところを見せて、特に抜群でもないが全く違和感が無いのは、分をわきまえた働きというべきだろうが、テンマ博士の役所広司は明らかにミスキャスト。こんなに不器用な人だとは思わなかった。声優としては全くダメ。普通の映画ではあんなに自然な振る舞いなのに、声だけの演技はなってない。もともと、映画自体、テンマ博士については心理的な掘り下げにはあまり成功していないので、せめて演技で説得力がほしいところなのだが、結果的には失敗している。非常に残念なので、DVD化の際には声優を替えてほしいものだ。
■さらに文句をつけておくと、テンマ博士心理描写が不十分。邪悪な大統領に協力し、自分の責任で息子を死なせて、ロボットとして復活させたものの、やっぱり息子じゃないとお気に召さないばっかりに、当のアトムはアイデンティティの危機を迎えるわけなのに、終盤では呆気なくアトムとの関係を修復し、結構大変な災厄をもたらしながらも何のお咎めも無いという、据わりの悪さは大きな欠点だろう。本来なら終盤で自分の非を認めて、命がけの反省を示すべきところだ。本作ではアトムの父親像はテンマ博士とオチャノミズ博士に分裂しており、父子関係がいたずらに複雑化していることも影響しているかもしれない。ただ、終盤のアクションの小気味良いたたみかけと、ジョン・オットマンの戦闘心を鼓舞するスコアのおかげで、そんなことを意識する間もなく、泣かされる。