親の顔が見たい ★★★★

親の顔が見たい
ミッドナイトステージ館 NHK BS2
2009年 劇団昴 NHKみんなの広場 ふれあいホール
作■畑澤聖悟 演出■黒岩亮
出演■西本裕行、北村昌子、姉崎公美、遠藤純一、宮本充、林佳代子、田村真紀、大坂史子、市川奈央子、金房求、落合るみ、永井誠、星野亘

■名門中学校の女生徒が教室で首を吊った。その夜、教室に集められた5組の親たちの前で、教師は女生徒がいじめを告発する文書を読み上げる。そこには、彼女をいじめた生徒達の名前が書かれており、それはその場に集められた親たちの娘の名だった。親たちは断片的な情報をもとに、エゴと保身丸出しの激論を交わすことになるが、告発の手紙は一通ではなかったのだ・・・
■「焼肉ドラゴン」に匹敵する、心のひりひりする傑作。アプローチの仕方は少々異なり、タイトルで察しが着くように、いじめによる自殺の問題を、直球ど真ん中といった手つきで描き出す。作者の畑澤聖悟は現役の高校教師ということで、加害生徒の親たちのリアリティが凄い。特に、実質的な主役と思しい高校教師の、とにかく非を簡単に認めては負けなのだ、無かったことにしなければならないという自己保身の権化のような人間像の徹底ぶりは凄まじい。ある意味で、作者自身を戯画化したものなのだろうが、非常に優れたどす黒いリアリティを発揮している。これこそ大人のリアリティである。現役高校教師がここまで赤裸々に描いて大丈夫なのかと心配になるほどだ。
■こうした、人間の”悪”とされるエゴを解剖して見せた映画の系譜が日本にはあって、新藤兼人山本薩夫といった左翼系の映画人の独壇場としたものだが、すっかり絶えて久しいと思いきや、どっこいこんなところに生きていたのだ。5組の親たちの事情とエゴ、担任の女教師の恐るべき本心、自殺した女性とのバイト先の新聞配達店の店主が明かすいじめの実態、それらが重層的にこどもたちのいじめの構図の病理と、親たちの無理解と断絶を炙り出す。ひとつの視点に組するのではなく、あれもこれもありうる、思い当たる心理として描き出して、”それでも生きていかなくちゃいけないんだもの”と、エゴの塊、体制の権化の高校教師夫妻で締めくくったラストの戦慄と、それでも大人の一人としては心底腑に落ちるリアリティに背筋がぞっとした。大変な傑作。

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