チェンジリング ★★★★

CHANGELING
2009 スコープサイズ 142分
イオンシネマ久御山(SC2)

チェンジリング [DVD]
■事実は小説よりも奇なり、どころではない堂々たる傑作映画。1920年代から30年代にかけてアメリカで実際に起った奇怪で残酷な事件の顛末を力むことなく悠然たる筆致で描きつくした静かな感動作だ。しかし、その感動は、行方不明の息子を探し出そうとするシングルマザーの情愛といったものではなく、本作が明らかにアクション映画として作られていることによっている。
■そのことが鮮明になるのは、腐敗した警部によってヒロインが精神病院に監禁されると、まるで女囚さそりのような女患者に出会う場面だ。人間には普段使ってはいけない言葉を使ってでも、反抗し、抗議しなければならない時があるのだということをヒロインに教育する重要な役割を演じて、まさに池田敏春の佳作「女囚さそり 殺人予告」を髣髴させるアクション映画の真髄が仕込まれているのだ。
■さらに、ヒロインにとっての精神病院と、その誘拐された息子にとっての地獄の一軒家という環境が重なり合わされ、反抗と脱出のドラマとしての構成が明らかになるとき、この映画が紛れも無い真性アクション映画であることが納得される。ラストの感動的な幕切れは、傑作「トゥルー・クライム」のラストを想起させる。
■反抗と脱出、その先にこそ芽生える希望、そうした図式的な構成を、入念な時代描写と、簡潔な人間描写にの積み重ねが肉付きをよくしており、非常にふくよかな映画になっている。演技陣では、久しぶりに観たマルコビッチがさすがに上手いし、無責任な警部のジェフリー・ドノヴァンなども、小粒ながら、事なかれ主義の官僚性をよく体現している。トム・スターンの銀残しの撮影も、嫌味が少なく、凄い。シネスコの画角を使い切っている。

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