透光の樹 ★★★☆

透光の樹
2004 ヴィスタサイズ 121分
DVD 
原作■高樹のぶ子 脚本■田中陽造
撮影■川上皓市 照明■熊谷秀夫
美術■小川富美夫 音楽■日野皓正
デジタル合成■小川利弘
監督■根岸吉太郎

■映像制作会社の社長(永島敏行)は、昔取材した刀匠(高橋昌也)の娘(秋吉久美子)と25年ぶりに再開し、寝たきりの刀匠の介護費用にと大金を差し出し、娘はその代わりに身体を差し出すのだった・・・

■分別盛りの男女の痴情と愛欲の果てを幻想的に描く傑作。企画意図としては「失楽園」の線を狙った部分もあるのだろうが、映画としては森田芳光作品を軽く超えている。正統派のロマンポルノであり、恋愛映画の極北でもある。ベテラン田中陽造を起用した脚本は伊達じゃない。ラストにはしっかりあの世とこの世が重なり合い、男女の情痴の果てのさらに15年後まで追求する作者の姿勢には、人間凝視の凄みを感じる。

■はじめは台詞が文学的(?)過ぎて、いったいどうなっているのかと困惑するのだが、次第に世界観に馴染んでゆき、永島敏行が病に倒れる頃からはすっかり引き込まれてしまう。前半が一見能天気なラブアフェアに見えるのは、後半の凄みを引き出すための方略であったことが判明する。大腸癌で余命幾ばくの永島敏行が、それでも秋吉久美子と睦み合う場面には、鬼気迫るものがあり、列車での別れの場面など、この世とあの世を分かつ時空間をロケで切り取ってみせた演出には舌を巻く。

秋吉久美子の演技にはムラがあり、全面的に賞賛はできないが、なにしろ秋吉久美子という女優の肉体がなければ成立しない企画であって、結果的に映画がこのレベルで完成してみれば、結果オーライということになろう。むしろ、この映画は永島敏行が秀逸で、正直、萩原健一ではこの演技レベルには到達しなかっただろう。後半の既に半分あの世に渡ってしまったような気配を全身から漲らせる演技は賞賛に値する。このところ、すっかり自衛官役者として映画ファンには認識されていた永島敏行だが、デビュー当時の柔軟さを取り戻しつつあるようだ。

■また、場面によって川上皓市のキャメラが素晴らしいので、川上皓市ファン(いるのか?)は必見。金沢の親戚の家(宿?)ではじめて結ばれる場面は、どこまでがロケでどこからステージなのかわからない。季節の花をあしらった舞台設定も美しく、これはラストで婆となったヒロインの凄いシーンに呼応しているのだが、淡く幻想的な舞台装置が、この世とあの世を自然と結びつけてしまう。川上皓市のキャメラが優れているのは、狙った場面をいかにもこれでもかという見せ方ではなく、あっさりと撮ってくれるところだろう。

■このところ根岸吉太郎の映画を立て続けに観ているが、もう巨匠と呼ぶべきではないか。本当は、同じレベルに澤井信一郎なども並んでもらわないといかんのだが。

■製作プロダクションはスタッフ東京、イマージュ、アルゴ・ピクチャーズほか。ロケセットも多用した比較的低予算映画だが、それでも何億円かかかっているらしい。この規模の話でも昔のようにオールセットで撮れば、超大作予算になってしまうようだ。


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