雪に願うこと ★★★☆

雪に願うこと
2005 ヴィスタサイズ 112分
DVD
原作■鳴海章 脚本■加藤正人
撮影■町田博 照明■木村太朗
美術■小川富美夫 音楽■伊藤ゴロー
合成■田中貴志
監督■根岸吉太郎

■東京でベンチャー企業を倒産させた男(伊勢谷友介)は故郷の北海道でばんえい競馬の厩舎を営む兄(佐藤浩市)のもとに転がり込み、仕事を手伝うことになる。賞金獲得が基準に達せず馬肉となる運命の競走馬を世話するうち、兄との確執や、捨てた母親(草笛光子)との再会といった出来事を経て、次第に自分の進むべき道を発見してゆく・・・

■「隠し砦の三悪人」を観て、「日本沈没」の脚本は上出来だったことを再確認したので、加藤正人が脚本を担当して、評判の高かった本作を観たわけだが、確かにベテランらしい手堅いオーソドックスな作劇が堪能できた。復活を遂げた根岸吉太郎の演出も、日本映画のいい部分を受け継いだ穏やかな肌合いの演出で、ひとりの男の再生の物語を丁寧に描きあげてゆく。ラストのレース場面も昨今のテレビドラマのように強引に煽るような手法はとらず、抑制の効いた作劇と演出が実を結んでいる。

小泉今日子が賄いのおばさんというのは、あまりに非現実的だが、でんでんや山本浩司らの厩舎のメンバーが擬似家族を形成しているあたりが興味深く、本当の家族を持たない、あるいは崩壊してしまった者たちが、厩舎で仕事を通じて擬似家族を成し、その中で生を紡いでいく様を描き出すのが、この映画の眼目だろう。

ばんえい競馬という珍しい題材のなかで、輓馬の魅力をたっぷりと映し出すのも鑑賞ポイントで、まるで蒸気機関車のように鼻から真っ白な息を噴出しながら、重い橇を引いてゆく様はそれだけで感動的な躍動感に満ちている。重い荷物を引きながら懸命に、黙々と、障害物を乗り越えてゆく輓馬の姿は、大人たちすべての人生の姿そのものとダブって、静かな感動を誘う。

■製作はビーワイルド、スタイルジャムほか、製作プロダクションはビーワイルド。


© 1998-2024 まり☆こうじ