インソムニア ★★★☆

INSOMNIA
2002 スコープサイズ 119分
BS2録画

 アラスカで発生した少女殺人事件にロスから派遣された敏腕刑事(アル・パチーノ)は、身辺に迫る内務調査に怯えながらも捜査を開始するが、犯人を追う内、深い霧の中で誤って相棒を射殺してしまう。折りしも白夜の季節で不眠に苦しめられる刑事に、事故の真相を知る殺人事件の犯人が接触してくるが・・・

 アル・パチーノロビン・ウィリアムスヒラリー・スワンク競演のサスペンスだが、公開当時はやけにサイコ・サスペンス風の宣伝が繰り広げられていたので見逃してしまった一作。しかし実際は、実に渋い警察(官)映画で、大人向けの映画だ。アル・パチーノ主演ということで「セルピコ」なども想起してしまうし、フライシャーの「センチュリアン」などにも連なる、警察官の心理と倫理観に肉薄した”男ごころ”を描いた映画なのである。

 だから、若い観客が期待しがちな奇抜な事件や謎解きといったギミックは実は全く無く、だからミステリーでも決してなく、あくまで主役の踏み外した刑事の心理描写が、刑事の”良心の呵責”を眠らせようとしない白夜や、刑事の分身であり、既に良心の呵責を克服し、白夜に適応した殺人犯との対比のなかで浮き彫りにされてゆく映画なのである。

 あくまでアル・パチーノ演ずる初老の刑事の人間像を描写することがこの映画の主眼であり、短いカットを交錯させながらも、バストショットやアップショットを多用してアル・パチーノの演技をじっくりと見せることを目指している。正直なところ、僅かに残ったアル・パチーノのフルショットでは、あまりの小男ぶりに愕然とさせられるのだが。

 とすれば、不眠の果てに辿りつくあのラストシーンの静謐さは、汚れちまった男の花道を示して、見事な終焉であったわけなのだ。捻りが無いとか意外性が云々といった若い観客の訳知り顔の感想など、まるで見当はずれなので、いっさい気にせず、虚心坦懐に一見することをお奨めする。

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