前田満州夫の監督デビュー作は超地味な傑作サスペンスだった『殺人者(ころし)を追え』

基本情報

殺人者(ころし)を追え ★★★☆
1962 スコープサイズ(モノクロ) 71分 @アマプラ
企画:笹井英男 脚本:古川卓巳若井基成 撮影:萩原泉 照明:吉田協佐 美術:横尾嘉良 音楽:宮内國郎 監督:前田満州

感想

■競馬の売り上げを強奪して逃亡した男・菅原を逮捕するため、情婦の住む団地に張り込んだ刑事たち。だが、彼を追うのは警察だけではなかった。。。

■前田満州夫の監督デビュー作で、当然低予算の中編映画。と思いきや、時間は短めだけど、まったくそんな不足感を感じさせないし、団地のセットは明らかに巨大なもの。脚本は原作モノではなく、オリジナルらしく、何故か古川卓巳主筆。企画のいわれはなにかありそうだけど、地味な素材を巧みに構築したよくできた脚本だし、見せ場を外さない演出にもブレがない。

■犯人を押さえるために情婦を張る刑事コンビって、腐るほどよくあるシチュエーションだけど、小高雄二&織田政雄という地味なコンビが実にいい味。小高雄二の若い刑事は本来現金輸送車に乗る予定だったがトラブルで乗りそこねた男で責任を感じている。一方で、女に裏切られて捨てられた過去があり、女なんて裏で何考えてるかしれたもんじゃないと女性不審と女性蔑視に囚われている。それがどう変化するのか?というところがドラマの見せ所で、きれいに決着するからさすが。

■しかも、刑事コンビのエピソードと並行して、競馬のノミ屋の三人組が犯人から現金を奪い返すために団地の一室に押し入って情婦を監視するというエピソードを対置してサスペンスを増幅させるといううまい作劇。この三人組のいやらしさと悪どさも見どころで、加原武門、井上昭文野呂圭介が演じる。本来ならもっと有名どころが演じる役柄だが、ある意味リアル路線なのだ。

■件の情婦が上月左知子で、その親友で保母さんが香月美奈子。この二人に対して、小高雄二が女性嫌悪と差別感をむき出して、異様なほどきつく当たるのがドラマ的な見どころで、最後に菅原の死体を前に泣き伏す情婦にマスコミ取材陣が激しく詰め寄る場面を目前にして、自分の身を顧みて反省するというあたりも上手い作劇で、台詞によらず役者の動きと画だけでさらりと心理描写を成立させてしまうから立派。というか、すごい技。

■最終的には警察に包囲された団地からノミ屋たちがいかに脱出するかというサスペンスに持ち込んで、さらにスクールバスを使ったアクションに繋げるという盛り沢山な趣向でサービス満点。しかも、荒唐無稽に入る手前でリアル路線に踏みとどまる。前田満州夫という監督、なかなかの逸材じゃないか。

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