記憶の棘 ★★★☆

BIRTH
2004 ヴィスタサイズ 100分
TOHOシネマズ二条(SC4)


 夫ショーンの突然死から10年後、再婚間近のアナ(ニコール・キッドマン)の前に現れた10歳の少年(キャメロン・ブライト)は、ショーンの生まれ変りだと主張し、結婚をやめるように懇願する。最初は信じられなかったアナだが、ショーンを知る人の質問に答えてみせる少年に、亡き夫への愛を喚起され、心は千地に乱れてゆく・・・

 輪廻転生を扱ったファンタジックなミステリーだが、物語はサスペンスやホラーには向かわず、若干の謎を定義しながらも、少年の一途な想いに揺れ動く女心を丁寧に描き出す心理描写に主眼がおかれている。ハリウッド映画といよりもヨーロッパのアート系映画の肌触りに近い。

 正直なところ、もっと通俗にサスペンス風に捻ってもいいのではないかと思うし、肝心のニコール・キッドマンと少年の交流にエロティシズムが不足気味なのはいただけない。少年と年上の女の恋物語として、メロドラマにも仕上がるはずのところだが、ニコール・キッドマンの一線を踏み越ええる狂おしい恋情がきちんと打ち出せていない。そこが弱いから、ラストの取り乱す彼女の姿も胸に迫らないのだ。

 そして、その失敗の元凶は少年を演じるキャメロン・ブライトがちっとも少年のエロティシズムを感じさせないことにある。単純にいって、演技よりも美少年ぶりに重きを置いておれば、ヒロインと少年の逢瀬にデカダンと倒錯の危険な味わいが増して、ニコール・キッドマンは、増村作品の若尾文子のように踏み越えた境地に達することができたはずだ。

 だが、この映画に個人的に特に思い入れがあるのは、後半で重要な役回りを演じるアン・ヘッシュが久々に映画で素晴らしい性格俳優ぶりを見せてくれるからだ。役回りは、まさに若尾文子に対する岸田今日子といった立場で、映画の後半を急展開させる重要な役どころを、彼女の持ち味の静かに常軌を逸した目つきで演じ切る。その眼光の淋しげな狂気にぞくぞくさせられた。頼むからもっと映画に出演してくれよ。

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