噂の女 ★★★☆

噂の女
1954 スタンダードサイズ 84分
BS2録画
脚本■依田義賢、成沢昌茂
撮影■宮川一夫 照明■岡本健一
美術■水谷浩 音楽■黛敏郎
監督■溝口健二


 京都島原の郭で太夫置屋茶店を兼ねて営む井筒屋を舞台に、東京で自殺未遂を起こして帰ってきて、置屋家業を憎む娘(久我美子)と、置屋をひとりで切り盛りする母(田中絹代)が、ひとりの男(大谷友右衛門)を巡って恋の鞘当を演じ、決定的な対立を迎えるが・・・
 黛敏郎の音楽は「赤線地帯」ほどではないものの、やはり不自然で、もっと古典的な音楽で素直な叙情を語ってもらったほうが観客としては嬉しいのだが、それでもさすがに充実した溝口健二の演出が冴える佳作。ほんとに登場人物も舞台も限定された小品だが、その充実ぶりが凄い。母娘の心理劇をクライマックスに向けて着実に追い込んでゆく。
 「祇園囃子」同様にその対立が呆気なく解消してしまうのは上映時間が90分以内に限定されていたせいだろうが、置屋の経営者母娘と太夫たちのおかれた立場の違いを対比させて重層的なテーマを浮かび上がらせるラストの脚本上の工夫が見事。溝口健二の演出の手際にも狂いは無く、「赤線地帯」に匹敵する名シーンではないだろうか。
 田中絹代に言い寄る溝口組常連の進藤英太郎が硬軟使い分けたいい芝居を見せる。田中春男に対する強面ぶりと、田中絹代に対する惚れた弱みをひとつのシーンで演じ分けてキャラクターの持つ、それ相応の貫禄ある大人としての複雑な人間味を醸し出している。

© 1998-2024 まり☆こうじ