『どぶ』

基本情報

どぶ
1954/ST
(2004/10/19 レンタルDVD)
脚本/新藤兼人棚田吾郎
撮影/伊藤武夫 照明/田畑正一
美術/丸茂孝 音楽/伊福部昭
監督/新藤兼人

感想(旧HPより転載)

 河童沼のルンペン集落に生きる二人の男(宇野重吉殿山泰司)のもとに転がり込んだ頭の弱い元女工乙羽信子)は、彼らのためにパンパンになって金を貢いだりするが、彼らはとんだ怠け者だった。ある日、地元の売春婦たちにリンチにあった女はそれまで自分を搾取してきた男達の幻影に逆上して、警官の拳銃を奪って暴れだす・・・

 乙羽信子を筆頭に、宇野重吉殿山泰司、信欣三、近藤宏、菅井一郎、山村聡といった錚々たるメンバーが終結して、ルンペン集落の人々のエネルギッシュながら自堕落な生き方を目一杯演じきる、その圧倒的なエネルギーに魅了される佳作。ただ、ラストがいかにもこの時期の日本映画の悪い風習に毒されているので、総体としては評価が下がってしまう。

 新藤兼人の映画では汚い役作りの多い乙羽信子だが、この作品の突き抜けた役作りは傑作といえるだろう。宇野重吉殿山泰司の駄目男コンビも秀逸で、新藤兼人の映画を観ていると、確実に殿山泰司のファンになってしまう。アプレゲールと呼ばれる無軌道な若者を演じる近藤宏の若さが眩しく、ゲテモノ食いで乙羽を拾って捨てる山村聡の酷薄な不気味さも凄い。その運転手の柳谷寛も小さい役ながら、これ以外にないというほどのはまり方だ。女に巣食う救いがたい病魔を非情にも言い当てる加藤嘉の配役も怖いほどの適役。

 この後、徐々にこうした新劇(民芸?)オールスター映画の体裁は減ってゆき、登場人物を絞り込んだ低予算独立プロの方法論を確立してゆくことになるのだろう。 

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