『フォーン・ブース』

基本情報

フォーン・ブース
(PHONE BOOTH)
2003/CS
(2003/11/24 京極東宝1)

感想(旧HPより転載)

 公衆電話ボックスにかかってきた電話を取った主人公(コリン・ファレル)は、電話の相手からライフルで命を狙われていることを知る。たまたま電話ボックスを独占する男を引きずり出そうとしたポン引きの男は犯人に狙撃されて死亡し、主人公が犯人と誤解されて警官隊に包囲されることに。正体不明の犯人と警察の両面から狙われる一触即発の窮地に立たされることになった主人公に生き残る道は残されているのか?そして謎の犯人の狙いとは?

 あの懐かしの「悪魔の赤ちゃん」のラリー・コーエンが書き下ろした異色のサスペンス劇の小品で、もっぱら特異なシチュエーションに頼ったワンアイディアだけで90分弱を一気に押し切るという近年珍しい潔の良さが身上の映画だ。監督は「8mm」などのダークで意欲的な脚本を骨抜きにしてきた前科のあるジョエル・シュマーカーだが、今回は最後まで破綻無く纏め上げている。

 事件の結末自体は案外穏当なもので、実際のところラストの急展開にはもう一ひねり工夫が欲しいところだが、エンドクレジットを除けば実質85分程度の物語の決着としては特に文句をつける必要も無いだろう。むしろ、そこへ至るまでのじりじりと偏執狂的なサスペンスを積み上げる演出に見所があるだろう。

 なぜか黒沢清の「ドッペルゲンガー」に引き続いて、ここでもスプリットスクリーンという特異な手法が大々的に利用され、シネスコ画面の中に小さなウィンドウが開いて電話の相手の様子などが提示されるのだが、この手法が一応サスペンスらしく機能しているのに感心する。

 おっとり刀で出動してきた警官隊を仕切るのがフォレスト・ウィティカーというのも微妙なキャスティングで、人間的には信用が置けそうだが、非情な現場判断には不安が残るという風情の人間像がサスペンスを増幅させる巧い配役だ。

 散々主人公を脅しあげておいて、最終的には非常にちっぽけな家庭劇として決着するところに今日の映画状況の困難さが表れており、物語の発展の仕方としては他に幾らでも膨らませ方があったはずだと思うのだが、あえてそこまで欲張らなかったところに今日的な潔さを見る思いがする。

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