『ティングラー/首筋に潜む恐怖』

基本情報

ティングラー
(THE TINGLER)
1959/VV/82分
(2003/10/17 輸入DVD)

感想(旧HPより転載)

 死刑囚の脊髄に異状があることに気づいた医師(V・プライス)は、人間の恐怖の感情を食って成長する寄生虫ティングラーの存在を仮想し、浮気性の妻をピストルで恐怖させ失神した後、レントゲン撮影によってその実在を確認する。通常の人間は恐怖の感情を悲鳴を上げることで発散するため寄生虫は猛威を振るうことはないが、偶然知合った映画館主の妻が聾唖者であったことから、叫び声をあげられない彼女を恐怖させれば寄生虫は肥大化するのではないかと考え・・・

 ジョー・ダンテが佳作「マチネー」でオマージュを捧げた、ウィリアム・キャッスル一世一代のギミック映画で、同じビンセント・プライスが主人公を演じた「地獄へつづく部屋」ともども稚気あふれる怪奇映画の好見本といえる小傑作だ。巨大化した寄生虫が映画館に紛れ込み、映写技師を襲うと、スクリーンにティングラーの影が映し出され、「ティングラーを追い払い、生きるために力いっぱい叫ぶのだ!」とビンセント・プライスに脅迫されるというのが呼び物のギミックで、同時に劇場内で椅子を振動させたりしたらしい。

 映画自体の完成度としては「血だらけの惨劇」や「第三の犯罪」(未見だが)のほうが上だろうが、スクリーンの中の世界と劇場の観客を無理やりリンクさせてしまう奇想は他の追随を許さないだろう。

 しかし、そうしたギミックだけに頼らず、ちゃんと怪奇犯罪劇としての構成も確かなのがロブ・ホワイトの脚本の頼もしいところで、さすがにラストの場当たり的な趣向には呆気にとられ、?の嵐に見舞われてしまうが、ウィリアム・キャッスルの簡潔な力強い映像表現により、かなり確実に怖い映画になっているから凄い。

 何しろ低予算映画を逆手にとって(?)冒頭から見たことも無い顔の濃い俳優たちが大写しで絶叫する表情が映し出されるだけで、異様に禍々しい雰囲気を作り上げてしまう作戦はモノクロ映像の表現力もあって大成功しており、さらに聾唖者の妻が遭遇する恐怖の怪異現象にはパートカラーを導入し、毒々しい赤黒い血に満たされたバスタブから人間の手が現われる場面なども、意外なほどの効果をあげている。

 終盤で大活躍するティングラー君は予想通りのへなちょこな代物だが、もっとSF的な考証を施して恐怖哲学の探求も織り込んだ脚本を用意し、VFXを駆使してリメイクすれば、今でも十分通用する素材だと思うのだが、ロバート・ゼメキスは何のためにダークキャッスル・エンタテイメントを設立したのか?

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