『大江戸五人男』

あの頃映画  大江戸五人男 [DVD]

あの頃映画 大江戸五人男 [DVD]

  • 発売日: 2012/12/21
  • メディア: DVD

基本情報

大江戸五人男
1951/ST
(2003/10/4 BS2録画)
脚本/八尋不二,柳川真一依田義賢
撮影/石本秀雄 照明/寺田重雄
美術/角井平吉 音楽/深井史郎
監督/伊藤大輔

感想(旧HPより転載)

 幡隋院長兵衛(阪東妻三郎)が束ねる町奴と水野十郎左衛門(市川右太衛門)が仕切る旗本奴との確執を背景に、彼らより若い世代の白井権八高橋貞二)が描いた絵図が災いして長兵衛が殺され、その結果旗本奴が幕府の訴追を受けて江戸の町に平和が戻るまでを描いた松竹映画創立30周年記念のオールスター映画で、監督の伊藤大輔としてはもっぱら御用監督として取り組んだ作品だったようだが、戦後の伊藤大輔の作品の中では十分に傑作と呼ぶに値する見事な悲壮劇である。
 水野家での腰元おきぬ(高峰美枝子)との間の身分違いの恋愛の顛末を描く部分はおなじみ皿の数を数える場面で期待を裏切らぬサスペンスを醸し出しており、ちゃんとショックシーンになっているのが楽しいし、その後の三島雅夫が水野を追い込む逆説的な台詞に込められた悪意が凄まじいテンションで演じられるこの場面は、数ある皿屋敷ものの中でも名場面と呼ばれるべきものだろう。この台詞を考えた脚本家も凄いが、この底意地の悪い人物を不気味なリアルさで演じきった三島雅夫という役者の巧さに改めて感動する。
 その顛末を告発して、争いを忌避する長兵衛を追い込むために権八が仕組んで「皿屋敷」の歌舞伎が出来上がるあたりの展開は作劇の醍醐味を感じさせるし、ラストの悲壮なラストにもつれ込むあたりはいかにも伊藤大輔の十八番といった感じで、たとえば「元禄美少年記」や「反逆児」ほどではないにしろ伊藤大輔ならではのドラマツルギーを堪能することができる。
 町奴と旗本奴の対立の中で傷つく無辜の市民の存在に気づき争いの回避を心に決めて自ら死地に赴く阪妻の姿は、映画が製作されてから半世紀を経た今観ても十分に通用する普遍性をもって胸に迫る。

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