基本情報
地球へ2千万マイル
(20 MILLION MILES TO EARTH)
1957/VV
(2003/8/13 BS2録画)
感想(旧HPより転載)
地中海に墜落したロケットは米軍が金星に打ち込んだ有人ロケットだった。探検隊の唯一の生き残りの軍人が、ロケットに保管されていたはずの金星生物の標本の行方を捜すが、既に海岸で拾ったイタリアの少年が生物学者に売り渡していた。地球の環境下で急激に成長する金星の怪物は好物の硫黄を求めて火山地帯に逃げ込むが、米軍の電撃作戦に屈し、ローマの動物園に収容され、科学者たちの研究対象となっていた。だが、実験装置の事故により、戒めを解かれた怪物は、ローマの街に彷徨い出るのだった。
ハリーハウゼンの傑作として名のみ高かった金星生物イーマ竜に遂にお目にかかることができた。BS2様々という今回の好企画だが、確かに代表作と呼ぶに値する力作である。
例によって脚本自体はかなり行き当たりばったりな代物で、一個の映画としては褒められた代物ではないのだが、金星獣の誕生から破滅までを念入りに描きあげたネイザン・ジュランの演出とハリーハウゼンのアニメ技術がかなり高度に融合しており、異郷の地を舞台としたモノクロ撮影の効果もあって、予想以上の出来栄えである。
映画の主眼は金星獣の生命の発生から消滅までの顛末を、ある時は怪奇映画的に、ある時はスペクタクルに物語ることだけに置かれ、怪物の生き物としての魅力を前面に打ち出す。金星獣が誕生時点から、既に成体の縮小版であり、赤ちゃんらしいデザインで可愛い仕草を演出しないあたりは、ハリーハウゼンの持ち味が徹底されているが、徐々にサイズを変えながら、怪物を追う人間たちと同じ画面上で密接に絡み合う様はさすがに感動的で、特に農家の納屋に逃げ込んで、隠れていたところを農具で刺されるあたりの演出はモノクロならではのシルエットの効果も生かされて、本編中の白眉といえる生々しさを生み出している。
実験台に拘束された金星獣が暴れだしてローマの街に侵入するというおなじみの場面も、動物園の象との格闘というアイディアが秀逸で、金星獣のリアルな大きさが実感される演出が素晴らしい。いったん姿を消した金星獣が橋を突き破って姿を現す場面も、力量感が素晴らしいが、あまり巨大になりしぎると人形アニメの表現上の限界が露になって苦しくなるのだが。
ハリーハウゼンが自分自身のキングコングの思いを込めて生み出した金星獣だが、その着想とキャラクターが十分に生かされる脚本が得られなかったのは、やはり不幸なことであろう。