『姦婦の生き埋葬』

基本情報

姦婦の生き埋葬
(PREMATURE BURIAL)
1962/CS
(2003/8/4 輸入DVD)

感想

 カタレプシーの持病を持つ父親が生きながら埋葬されたという脅迫観念を持つ主人公(レイ・ミランド)は、自分も同じように生き埋葬の地獄を味わうのではないかと常に怯えていたが、婚約者(ヘイゼル・コート)の懇願を受けて躊躇していた結婚に踏み切る。誤って生きながら埋葬されても棺の中から脱出できるように特注の霊安所を建てた夫の異常な行動に、妻は医師とともに説得にあたり、忌まわしい建物は爆破されるが、生き埋葬を連想させる事件が立て続けに起こり、主人公の神経衰弱は悪化の一途を辿る。業を煮やした医師は、地下墓所の父親の遺体を確認することを提案するが、棺の中から飛び出した父親の遺体を見て、主人公は遂にカタレプシーを発症してしまう。まだ生きていることに誰も気づかぬまま、彼の棺は墓地に埋められるが・・・

 ロジャー・コーマンによるエドガー・アラン・ポー連作の第3作にあたり、脂の乗り切った怪奇幻想世界が展開する怪奇映画好きには絶好の贈り物。契約の関係でおなじみのビンセント・プライスが主役を演じることができず、オスカー俳優のレイ・ミランドが主演を勤めたことで、一連のAIPによるポーシリーズとは若干印象の異なる作品だが、ダニエル・ハラーの絶品といえる美術装置は、ここでも絶大な効果を発揮している。

 「姦婦の生き埋葬」という、封切り当時ですら時代錯誤な、古色蒼然とした邦題の味わい深さが露となるクライマックスの急展開が何とも痛快で、畳み掛けるような復讐と悲劇の連鎖反応が、霧の淀んだ荒涼たる墓地に怪奇映画的情念を横溢させる。以前にトリミング版のビデオで観た時には、感知できなかったその退廃的な美しさが、リストアされたDVDのクリアな画質のおかげで十分に堪能できたことを喜びたい。

 典型的なハリウッド女優のゴージャスな風貌で登場したヘイゼル・コートが徐々にその本性を顕してゆく様子を、衣装や髪型の変化による心理的な描写で表現したロジャー・コーマンの演出はなかなか巧妙で、冒頭とラストの落差の激しさで観るものを慄然とさせる。まさに絶頂期の演出というべきだろう。

 なお、アメリカで発売されているDVDは「赤死病の仮面」とのカップリングで、価格もバカに安いというお買い得かつ良心的な商品なので、怪奇映画マニアにはお薦めしておこう。最近国内版も発売されてしまいましたが・・・

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